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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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ニブルヘイム

 ニブルヘイムへ向かうため、俺たちは準備を整え、魔法車に乗りこんだ。

 さすがに突然いなくなるのはまずいと思い、工房には『急用のため少し留守にします』とだけ書いた手紙を残してきた。

 あの万能メイドたちならあの手紙を見て、うまく対処してくれるだろう。


 魔法車を走らせ、北へ――さらに北へと進む。


 転送魔法を使えば一瞬でニブルヘイムに行けるのでは、と思うかもしれないが、あれは決して万能ではない。

 安定して転移できるのは、実際に術者が足を踏み入れたことのある場所だけだ。

 未知の地点へ飛ぼうとすれば、成功率は一気に下がる。

 地中深くに埋まったり、まったく別の土地に飛ばされたり。運が悪ければ、異空間へ放り出されることもあるという。

 そんな博打を打つつもりはない。


 だから俺は、エルマに教わった現実的な方法を使っていた。

 目に見えている範囲なら、転移のリスクは限りなく低い。

 見える限りの安全そうな先へ、魔法車ごと転移する。

 魔力が回復したら、また飛ぶ。それを、ただ淡々と繰り返す。

 それだけのことだが、効果は絶大だった。

 本来ならニブルヘイムに辿り着くまで一か月はかかる長旅が、この方法なら、わずか数日で済みそうだ。


 北へ進むにつれ、大地の色が変わり始めた。

 土は凍り、地面は白く硬く閉ざされていく。


「わわわ……息を吐くと真っ白です……! これは……私たちの存在がこの地に拒絶されている証……?」


 ミーアが、大袈裟に驚いている。


「いや、普通に寒いだけだ」


 さらに進むと、寒さの質も変わってくる。


「……寒い、というより、痛いな」


「正常にゃん。ニブルヘイムは、そういう場所にゃん」


 視界は、白と灰の二色だけになる。

 やがて霧が立ち込め、遠景が完全に溶けた。


「これが(ニブル)にゃん。つまり……もうニブルヘイムに入ったにゃんね」


 地平線は消失し、空と地面の境界が分からなくなる。上下の感覚すら、狂ってしまいそうだ。


「世界が……氷漬けになっているみたいです……」


 ミーアが、少し声を潜めて呟いた。


「こんな場所に、本当に人が住めるのか?」


「寒さに強い戌人と、未人がいるにゃんよ」


「魔王たちの縄張りもあるだろ。どうして、わざわざこんな極寒の地にこだわってるんだ?」


 リリィは、当然のことのように答えた。


「ニブルヘイムは、原初の世界の一つにゃん」


「原初……?」


「世界が分かれる前から存在している場所にゃん。そのせいで、空間の魔力が、異常に濃いにゃん」


 言われて、ようやく気づいた。確かに、魔力の回復が異様に早い。

 この環境なら、大規模な魔法を連続で放つことも可能だ。

 魔王たちが、この地に執着する理由も理解できる。


 俺は、白く閉ざされた世界を見渡した。

 遠くまで見渡すことができず、安全に転送魔法を使うことは難しそうだ。


 ――ここが、ニブルヘイム。

 師匠の過去と、世界の歪みが交わる場所。


 その瞬間だった。


 前方の白の中に、動く何かが混じった。


 もこもこ。ふわふわ。

 圧倒的、毛量。


「……羊?」


「未人にゃん」


 リリィが叫んだ。

 近づくにつれ、それが確かに人型だと分かる。

 毛。毛。毛。全身が羊のような毛に覆われている。

 その未人たちは、必死な形相でこちらへ駆けてきていた。


「下(メー)、ここで捕まるわけにはいかぬ……! 絶体絶(メー)!」


 振り返った霧の奥から、荒々しい気配が一気に迫ってきた。


 白い靄を蹴散らして現れたのは、鋭い牙をむき出しにした戌人たち。

 獣じみた笑みを浮かべ、獲物を追い詰めることそのものを楽しんでいる目だ。


 その先頭に立つ一体は、明らかに体の大きさが違った。

 人の倍近い体格。

 全身を覆う毛皮は黒と褐色が混じり、ところどころが硬く逆立っている。

 肩から腕にかけては筋肉が盛り上がり、指先の爪は短剣のように尖っていた。

 顔つきは獰猛な狼のようで、細長い口吻(こうふん)にずらりと牙が並んでいる。

 そいつが喉を鳴らし、不気味な声を張り上げた。


「ウハハハハ! 未人共、せいぜい逃げ惑うがいい! 俺は三獣士がひとり、ジャッカル――」


 だが、名乗り終えることはなかった。

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