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勇者はカッチカチ

 勇者トオルは相変わらず豪快だった。彼の大きな笑い声が、車内に響き渡る。


「だーははは! ユージ、久しぶりだな! レベルは上がったか? 俺は30まで上げたぜ!」


 トオルは誇らしげに聞いてくる。


「だから、ユージじゃなくてリバティだってば。あと、俺のレベルは……40だ」


「だぁーっ、な、なんで!? どうしてそんなに……」


 トオルの目が大きく見開かれ、明らかに動揺している。俺はただ肩をすくめる。


「いや、まぁ、色々あってね」


「それより、聞いたぞ。お前、サリオン帝国の外で自由にやってるってな。正直、羨ましいぜ。俺はあの皇帝に言われるまま、あっち行ったりこっち行ったり、時には侵略みたいなこともやらされてるんだぜ」


「それはご苦労様だな」


 と俺は返したが、心の中で少しだけ彼の苦労に思いを馳せた。


「そういや、皇帝が怒りまくってるぞ。お前がいなくなってから魔道具が作れなくなり、税収が入らなくなったってな。見つかると厄介なことになるかもしれんから、気をつけろよ」


 俺も正直、あの皇帝とはもう会いたくない。そもそも、重税で民が逃げて行くのは当然だ。


 イザベルに到着すると、レイアとミーアが久しぶりの再会を果たした。


「ミーアちゃん、久しぶり! 元気そうで安心したよ」


「あっ、レイアお姉ちゃん! うん、お兄ちゃんがよくしてくれるから、すっごく住みやすいよ」


 ミーアがにっこりと笑うと、レイアは満足げに僕を見て、グッジョブのサインを送ってきた。


「それにしても、イザベルって呪われた地って噂されていたけど、みんな元気そうだし、活気のある場所なんだね」


「おお、あちこちから美味しそうな匂いが漂ってくるな」


 レイアとトオルが周囲を見渡して言うと、ミーアは嬉しそうに答えた。


「それも全部、お兄ちゃんのおかげなんだよ」


「まあ、ここの名物でも食べてみなよ」


 と、俺は調理したばかりの海鮮とイモ料理をテーブルに並べた。焼き上げたエビ、カニ、イカ、タコ、この地で収穫したイモを使ったフライドポテトとポテトチップスだ。


「おお、こ、これは!?」


 トオルが目を輝かせて叫んだ。レイアも驚き、すぐに食べ始める。懐かしい味に二人とも大喜びだ。


「うわー! この味、やっぱり最高だよ!」


「久しぶりにこんな旨いものを食べた! あー酒が飲みてえ、俺ここではまだ子供だが」


 皆、腹ごしらえも済ませ、準備万端だ。

 イザベルの人々から得た情報を元に、俺なりに準備したいくつかの道具を持って、俺、レイア、トオル、ミーアの四人は魔法車で水源へと向かった。呪われた地の光景を目の当たりにしたとき、皆その異常さに驚きを隠せなかった。周囲のあらゆるものが石に変わっている。


「浄化、やれるだけやってみる」


 レイアが言うと、彼女は穏やかに目を閉じ、力強く詠唱を始めた。


「神々のおわす天の頂より、あらゆる汚れを祓い清める聖なる光」


 彼女の詠唱と共に、彼女の足元に現れた輝く魔法陣に文字が刻まれていく。


浄化(ピューリファイ)


 聖女の神聖魔法が空気を震わせ、周囲に光の波動が広がる。俺たちも眩しい輝きに包み込まれた。その力は圧倒的だった。一瞬で周囲の石化の呪いが解け、川の水が再び流れ始めた。


「お姉ちゃん、凄い!」


 ミーアが目を輝かせて言うと、トオルも満面の笑みを浮かべた。


「だーははは、さすがはレイアだな!」


 しかし、残念ながら水の流れはすぐに止まってしまった。レイアが石化を解除した範囲は限られており、そこで戻った水の流れだけでは集落に届くほどの量は確保できない。


「やっぱり、行くしかないか……」


 問題を解決するためには、やはりさらに深く進む必要がある。俺たちはバジリスクの居場所である川の上流へと向かった。視界に入るあらゆるものが石となり、無機質でひんやりとした空気の中、次第にその巨大な生物の姿が見えてきた。川の最上流あたり、石になっている滝の前に、巨大な蛇が堂々と座っている。その姿は圧倒的な存在感があった。


「あれがバジリスクか……」


 そしてその周りには何体かの石像が転がっている。おそらくバジリスクによって石にされてしまった人々なのだろう。


「これどうするの? ちなみに私、攻撃能力はないわよ」


 レイアが石の木の後ろに隠れながら言う。俺はしばらく黙ってその巨大な生物を観察した。バジリスクはその目が非常に危険で、その視線一つであらゆるものを石化させてしまうと言われている。そう簡単には近づけない。


「ふん、見てろ! 俺の出番だな」


 トオルが力強く言うと、見たことのないハンマーのような武器を取り出した。


「これは『破壊の戦鎚(ミョルニル)』。俺がキュプロクス討伐の時に見つけた神聖武器らしいぜ。凄え威力なんだ。こいつをあの蛇の脳天にぶち込めば終いだ」


 トオルは勇ましくバジリスクに向かって歩き出し、ハンマーを掲げた。


「だーははは! 勇者の俺が来たからにはお前の命運もここまーー」


 しかし、その瞬間、バジリスクがゆっくりと顔を上げ、不機嫌そうにトオルを睨みつけた。


「あ……」


 その直後、バジリスクの邪眼から放たれる光線が、真っ直ぐトオルを貫くと、彼の体はあっという間にカッチカチの石になり、動かなくなった。

バジリスクのいるこの山は、カッチカチ山と呼ばれているとかいないとか。


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