恐ろしいバジリスクの呪い
俺がこの世界に来てから、早いもので二年が過ぎた。特にイザベルの地に来てからは、毎日が充実している。なにより、朝寝坊し放題なところが最高だ。
「お兄ちゃん、朝ですよ」
ただし、この蛇型妹目覚まし時計が作動する日を除いては……
「お兄ちゃん、今日は区長さんとの打ち合わせです。そろそろ起きないと遅れてしまいますよ」
「むにゃむにゃ、あと5分……願わくば2時間……」
「もう、お兄ちゃん! すぐに起きないと巻きついちゃいますよ!」
可愛い妹キャラに巻き付かれるなら、むしろ悪くないと思いながらも、あまりミーアを困らせてはいけないので渋々目を覚ます。そう言えば、ミーアも七歳になった。だんだんしっかりしてきたな。
今日のダノンさんとの打ち合わせは、水の問題についてだ。十分な食料が確保できたおかげで、イザベルの集落にも活気が戻り、以前この集落を捨てた人々が戻ってきたり、新しく住み始める人も増えてきた。また、広大になったイモ畑には、さらに多くの水が必要だ。しかし、『魔法蒸留装置』で海水を蒸留して水を作る方法では、どうしても供給が追いつかなくなってきた。効率が悪すぎるのだ。
そこで俺は一つ気付いたことがある。集落の中央に、かつて川が流れていた名残のような、窪んだ土地が続いている場所がある。今はその場所に水はないが、不思議に思いダノンさんに尋ねてみると、意外な話を聞いた。
「それはおらがまだ子供だった頃の、おとぎ話みたいな本当の話だの。この集落には昔、確かに川が流れていた。ある日、集落に一人の賢者がやってきて、その賢者は川の上流にある古代遺跡に向かったんだと。そこで賢者が何をしたのかは知らんが、神の怒りを買って石にされたと聞いてる。その後、遺跡は神の力で封鎖され、遺跡を守る魔物、バジリスクが生み出された。そのバジリスクの呪いによって、あらゆるものが石となり、川の流れも完全に止まってしまっただの」
どうやら、その呪いは今もなお続いているらしい。本当におとぎ話のような話だが、ここが呪われた土地だという伝説の根源は、まさにその呪いから来ているのだろう。俺がその様子を直接見てみたいと言うと、ダノンさんは快く承諾し、案内役をつけてくれることになった。
「リバティさんなら、きっと何か良い方法を思いつくかもしれんな。これは、おらの孫娘のナノンだの。案内役をお願いするだよ」
「私はナノン! よろしくね!」
ナノンは16歳くらいの活発な女性で、元気に手を振った。見た目も性格も、明るくて頼りがいがありそうだ。
俺はナノンを魔法車の助手席に乗せ、かつての川の上流へ向かった。進んでいくうちに、確かにその場所に近づくにつれて、あらゆるものが石に変わっていった。草も木も、川の流れも、すべてが固く冷たい石に変わり、まるで時の止まった世界のように感じた。
「ここから先は行かない方がいいよ。バジリスクに遭遇したら、石にされちゃうなの」
ナノンが真剣な顔で言った。
「実際、イザベルの集落でも、石にされて帰ってこない人がいるよ」
その言葉に、俺も思わず冷や汗が流れた。石にされてしまったら、どうしようもないだろう。
「本当に恐ろしい呪いなの。聖女様でもいれば、呪いを解けるかもしれないけど……」
ナノンの聖女という言葉に、真っ先にレイアの顔が浮かんだ。確かに彼女なら、この呪いを解くことができるかもしれない。
「その聖女様を連れてくるよ!」
俺は早速魔法車を飛ばしてサリオン帝国へ向かった。帝国兵に見つかると騒ぎになるかもしれないので、帝国に近づく前に茂みに車を隠し、こっそりと侵入した。レイアに最後に会ってから、もう一年半ほど経っている。会えるか少し心配していたが、幸いにも彼女が営んでいる医院は前と同じ場所にあった。
「あっ、リバティさん! お久しぶりです。ミーアちゃんも元気ですか?」
レイアが笑顔で迎えてくれた。少し身長が伸びている。俺はイザベルの地での近況を伝え、呪われた地のことで困っていることを話し、彼女に協力をお願いした。多くの人々の助けになること、魔法車を使えば、帝国からイザベルまで一日足らずで移動できることを説明すると、レイアは快く引き受けてくれた。しかし、話が終わり、医院から外に出ると、思いもよらぬ人物が待っていた。
「盗み聞きするつもりはなかったが、その話を聞いたら放っておけんな。俺も同行するぞ!」
そこに立っていたのはトオルだった。なんでここにいるんだ?
「最近、よくこの病院の近くにいて、私が外に出ると、奇遇だなって話しかけてくるのよね」
レイアの言葉に、とぼけた表情をしているトオル。何だかストーカーみたいだな。でも、バジリスクという強力な魔物と戦うなら、勇者が一緒の方が心強いのも事実だ。
「まぁ、確かにトオルさんがいてくれたら安心だ。よろしく頼むよ」
俺はレイアとトオルを魔法車に乗せ、再びイザベルの地へと向かった。
バジリスクは一説にはコカトリスとも同一視されているそうですよ。
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