『軍』の競技
司会が前に進み出て、場内に向かって競技の説明を始めた。
「さて、本日の試合は、これまでの競技とは異なり――団体戦となっているのでございます!」
観客席から小さなどよめきが起こる。
「両国の代表であるミーア様とハルト様には、それぞれ六名の仲間――いわば『駒』となる戦士たちを率いていただきます」
シレーヌは、種別ごとに指を立てながら説明を続けた。
「駒の内訳は以下の通りでございます」
・ナイト 2名
剣による攻撃が許可された剣士。
剣などの武器は、このナイトにしか使えない。
・ビショップ 2名
魔法を使用することが許された術者。
魔法攻撃や回復魔法の使用は、このビショップにのみ許可される。
・ルーク 2名
盾を用いることが許された守備専門の兵士。
盾の使用は、ルークだけに許可される。
「以上、ナイト、ビショップ、ルークの三種六名を従えるかたちとなります。なお、この駒たちは明確に役割が定められており、自分の役割以外の行動は禁止されております。例えば、剣士が魔法を使うことや、魔導士が盾を持つことは許されないのでございます」
観客たちも頷きながら耳を傾けている。
「さらに注意点として――これまでの競技に出場された選手、これからの競技に出場する予定の選手たちは、この試合の駒として参加することができないのです!」
そこで説明はデュビュネ方に引き継がれた。
「さて、ミーア様とハルト様には、この六名を指揮していただくのです。お二人の役職は――キングになるのです」
係員が、慎重に小さな王冠を二人の頭に載せる。
「キングには、基本的に行動の制限はありません。剣を取って戦うも良し、魔法を行使するも良し、味方の防御に回るも良し。自由に動いていただいて構わないのです」
ここで、デルピュネの口調がやや引き締まる。
「ですが――重要なルールがあるのです。キングの証であるこの冠が奪われた瞬間、その陣営の敗北が決定するのです!」
「つまり、キングがいかに自由に動けたとしても、『冠を守ること』こそが最も重要な使命であるということ。逆に言えば、駒たちをどう動かし、どう自分を守らせるか……その指揮力と戦術が問われる試合なのでございます!」
「とーっても、わかりやすいルールなのです!」
と、最後はデルピュネが明るく締めくくる。
――チェスから、ポーンとクイーンを抜いた感じだな
――結局、全員倒せば勝ちだな。
――ミーアちゃんならきっと瞬殺なの!
――つまり、行動制限のないミーアは、邪眼を使っても良いということだ。これはこちらの強力な武器になる。
ただし、キング自身がどれだけ強くても、冠を失ったら即終了。
これは単なる力比べではない。限られた戦力で、いかに局面を見極め、適切な指示を下すか。
知略と判断力が問われる、戦術の試合でもあるのだ。
「それでは、両陣営の『駒』となる戦士の皆さん、ご入場くださいなのです!」
司会の合図とともに、まずはサリオン帝国の陣営から六人の戦士たちが姿を現す。
見た目にも精鋭揃い。鋭い目つきの剣士ナイトたちに、堂々とした風格の魔導士ビショップ、そして重装歩兵のルーク。どの者も鍛え上げられた身体に、場慣れした雰囲気を漂わせている。
続いてアースベル陣営。
ナイトとして前に出たのは、ハンツと寅人の戦士サーベル。ビショップには、巳人のコブラと、ネイク。ルークには、モーリスと、腕っぷし自慢の寅人戦士アムールが加わる。
顔ぶれだけを見れば、アースベルのほうが強そうだ。巳人の魔法は強力だし、寅人の身体能力は申人より遥かに高い。対して、サリオン帝国側は手練れとは言え、全員申人だ。
だが――冷静に見ると、こちらの戦力に凹凸があるのも事実だった。
「なあ、兄ちゃん。正直言って、俺たちで大丈夫なのか?」
モーリスが不安げに呟く。
「さあな……でも、俺たちは自警団のツートップ。ミーア嬢をお守りする仕事と聞いたら、やるしかないだろ」
ハンツトとモーリス、彼らは自警団の『自称』ツートップ。俺から言わせれば実戦経験がまだまだ足りない。それでも、ミーアとの信頼関係でエントリーされている。
「最後に言い忘れておりましたが、このステージから落ちた場合は失格となるのでございます。駒の方が落ちた場合、再びステージに戻ることはできません。キングの方が落ちた場合、その時点で敗北が決定しますので、ご注意ください」
チェス版のようなステージの上には、それぞれのチームのキングと駒たち、合計十四名が配置された。
「それでは、いよいよ『軍』の競技の開始、でございます!」
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