知識と経験
エルマは当然といった面持ちで魔法スクリーンを見上げた。
「エルマ様、見事な巻き返し! このまま流れを掴めるのか――続いて、第四問でございます!」
『古代遺跡の守護者は、誰が作ったのですか?』
「古代遺跡の守護者といえば、泣く子も黙る古代兵器なのです。とても気になる質問ですねぇ。それでは答えをお書きくださいなのです。準備ができたら、先行のジンクス様、お願いするのです」
観客たちがどよめく中、ジンクスが一歩前へ。
「当然ながら、守護者を作ったのは、古代遺跡を築いたのと同じ神々の仕事ぇん。神々は、分不相応な力が人の手に渡らぬよう、守護者を配したのじゃぇん。分不相応な力は身を滅ぼす。物事は、さまざまな角度から見なければならんぇん。つまり、守護者は我々人の守護者でもあるのぇん」
ーーおおー、なるほど、そういう考え方もあるのが。
ーー深い、深すぎるっす!
会場が感嘆の波を上げる中、エルマが壇上に立つ。
「ふむ。後攻の利点、最大限使わせてもらうとしよう。――その解釈、少々甘いのう」
声は穏やかだか、その言葉には鋭さがあった。
「古代遺跡の壁は、いまだに解明されぬ未知の物質でてきておる。儂が全力の魔法を放っても、傷ひとつつかん。だが――守護者は違う。儂はこれまで、何体もの守護者を撃破してきた。つまり、破壊可能なのじゃ」
観客席がどよめきに包まれる。
――え、あの守護者を倒したって……?
――実際に守護者が倒された記録はあるらしいぞ。
――異なる最上級魔法を多重詠唱できる能力があれば確かに倒せても不思議はないか
「絶対に壊せぬ遺跡の壁と、壊せる守護者。この違いは、造り手が異なるという明白な証拠じゃ。また――ジンクス殿が言ったように、神々が魔法を封じる目的で守護者を置いたとするなら、そもそも遺跡を作らなければよいのではないか? そうではない。神々、或いは古代人は、後の人々に魔法を残すため、遺跡を作ったのじゃ」
エルマは改めて観客席を見渡した。
「ならば守護者を作ったのは誰か? おそらく、古代魔法を独占しようとした、後世の王。儂は、あの守護者のものと酷似した金属を、子人の国、ニザヴェリルで見たことがある。そこから、古代の子人の王が、力を独占するために作らせた、というのが儂の仮説じゃ」
ざわめきが大きくなる。
――経験の重みが違うな……
――説得力ある。
シレーヌがタイミングを見計らい、声を張る。
「皆さま、ご判定を! 札を挙げてください!」
エルマ:656票
ジンクス:344票
「第四問は――エルマ様の勝利!」
会場が揺れるほどの大歓声に包まれた。
エルマは小さく頷いて一言。
「当然じゃ。奴らとは何度もまみえ、直に観察してきたのじゃからな」
ジンクスは、驚きに満ちた目を見開いていた。
「……あの兵器を、本当に何度も……倒してきたのかぇん……? 百人の兵団を仕向けても勝てないというあの守護者を……」
その声には、隠しきれない動揺が滲んでいた。
そして――
「さあ、これでスコアは2対2! 勝敗は、いよいよ最後の一問に委ねられたのでございます!」
シレーヌが、天を指し示すように手を高く掲げる。
「運命を決する、最終問題――第五問はこちら、でございます!」
『世界の終末は本当に訪れるのですか? その原因は何ですか?』
場内が静まりかえる。
誰もが固唾を呑み、この問いの重みを感じ取っていた。
「それでは――回答をお書きください! 先攻は、エルマ様!」
エルマは素早く筆を走らせ、短い言葉のみを書いたかと思うと、すぐに語りはじめた。
「終末論については、『ヴォルスパの予言書』の記述が元になっておる。儂は若かりし頃、このヴォルスパについて長く研究しておった。しかし、古代語で記されたこの予言書の項目はやや曖昧で、また、各予言の間には数百年単位の時間差がある。じゃが――その内容を慎重に読み解けば、こう言える。『予言書に記された出来事は、いずれも事実となった』とな。そして、ヴォルスパの予言する次の出来事が、世界の終末なのじゃ」
観客席が、息を呑む音で満たされた。
「この終末の予言を読み解いた結果――儂は『大きなヒト』こそが引き金となる、と結論づけた。そこから、巨人の国――ヨトゥンヘイムが終末の原因となると考えたのじゃ」
聴衆は静かにエルマの語りに耳を傾けている。
「儂はこの研究を論文としてまとめ、発表した。ちょうど百年前のことじゃ。その論文の名は『ヨトゥンの午後』」
会場に一気にどよめきが広がる。
――異世界の論文とか難しすぎるんだけど! もう頭がサッパリパリパリ!
――読んだことないけど、名前は聞いたことある……伝説級の論文だろ?
――ていうか、このお姉ちゃん……何歳なんだよwww
――これ、あれだ。ロリババァ。あざっす!
ジンクスは目を見開き、余裕の笑みはもはやない。その顔には、驚愕を通り越した感嘆の色が滲んでいる。
「……まさか、あの論文を書いたのが賢者様だったとは……!? 著者の名は確か、エルマ・フェ……あっ……!」
ジンクスは呆然と、ぽつりと呟くように続けた。
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