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許し難い暴挙

 半年ぶりに訪れたサリオン城。壮大な石造りの壁に囲まれたこの城は、相変わらず豪華で威圧感がある。門をくぐると、数十人の兵士たちが整然と並んでいて、その数の多さに圧倒される。この国、どうしてこんなに資金力があるんだろう? と疑問に思うくらいだ。

 城に到着すると、案内されるまま皇帝の間へと通された。広々とした部屋の中央には、王座に座った皇帝ゴルディアスが前回と同じように君臨していた。彼は金色の派手な装飾が施された王座に座り、相変わらず偉そうな口調で話し始めた。


「久しいの、リバティ。新しい魔道具を考案し、活躍しているそうだな」


 少しは俺のことを見直してくれたのだろうか。そう思うとあの冷たい視線もほんの少しだけ温く見えた。だが、次の言葉が俺の心を凍り付かせることになった。


「ところで、魔道具の販売についてだが、知っておると思うが、魔道具の売上に対して五割の税金を納める必要がある。そして、余は決めたのだ。今からこの税金を七割まで上げることにした」


 なっ、七割!? 税金の話は確かにハルトもしていたが、七割……驚きと共に、冷や汗が背中を伝う。


「昨今、魔王ヘルヴァーナ・リリィ率いる寅人(いんじん)の国ヘルヘイムの動きが活発になってきている。我が帝国は対抗するために先立つものが必要なのだ」


 国防が大切なのは分かるが、個人に対して突然のあまりに理不尽な要求だ。俺はとっさに質問した。


「税金が売上の七割!? 魔道具を作るには材料費だってかかります。売り上げから材料費を引いた、利益の七割ですよね?」


 ゴルディアスは冷たい笑みを浮かべて言った。


「いや、売上の七割だ。材料費などいくらでも誤魔化せるからな。そして、税は魔道具を売り始めた時まで遡って徴収する」


 頭の中が真っ白になり、絶句するしかなかった。材料費を考えると、売上の五割が税金でも十分に高すぎるのに、七割となれば利益のほぼ全てが税金で持っていかれてしまう計算になる。無茶苦茶だ。なるほど、これがこの国で誰も魔道具師になりたがらない理由だったのか。俺は今更ながら理解した。


「では、これからも魔道具を作り、この国のために多くの税金を納めてくれ」


 ゴルディアスはそれだけ言うと、俺の返答を聞く気もなさそうに、すぐに席を立って去っていった。


「……ここに呼び出すために大金を使っているのだ。これくらいの役には立ってもらわねば……」


 去り際に小さな呟きが聞こえた。

 そして、その日のうちに、サリオン帝国の兵士たちが何十人も俺の滞在先に押し寄せ、税金と称して、俺が築いた財産を根こそぎ持っていってしまった。


 俺の命より大切な金……


 兵士たちに抵抗しようかとも考えたが、サリオン帝国全体を敵に回して勝てるはずもない。え、金が命より大切なら命懸けで抵抗しろって? いやいや、俺が死んだ後に金が俺のものになるなら命など捨てる気で挑むが、俺が死んだ後に金が結局奪われてしまうなら、それはただの犬死だ。その辺は冷静なのだ。まあ屁理屈だと言われれば甘んじて受け入れよう。そんなわけで、俺はただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。金もなければ自由もない……もう、嫌だこんな国……


 昼間でありながら空はどんよりと暗く、激しい雨が降り続いていた。まるで、今の俺の気持ちをそのまま表しているかのようだ。俺は傘もささずに、冷たい雨に打たれながら歩き続けた。目の前に広がる街の景色も、無機質で冷たく映る。俺にとって、命よりも大切なお金を失った今、もはや何のために生きているのだろう。そんなことを考えながら、俺は絶望の中で、ただトボトボと歩いていた。


 そんな時、目の前に現れた光景に、思わず目を疑った。三人の帝国兵が、談笑しながらまだ幼い一人の少女を乱暴に引きずっていたのだ。少女はまだ五歳くらいの幼子だ。彼女はまだ息はあるようだかボロボロで、もはや抵抗する力も失われ、ただ無理やり引きずられていく。いや、これはひどすぎる。あまりにも無惨なその姿に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 それは俺にとって珍しい、感情的で衝動的な行動だった。少女を助けたいという思いだけではなく、お金を失った悲しみと、帝国への怒りが一気に込み上げてきて、俺は我を忘れて帝国兵たちに突進していた。

まあ、人生そう思い通りには行きませんよね。


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