第8話 脅威、迫り来る牙
「ガウッ…!」
けたたましい咆哮が、基地全体を揺るがす。
土煙が収まると、破壊された扉の向こうから、鋭い牙をむき出しにした、巨大な影が姿を現した。
それは、魔界の荒野に広く生息する、獰猛な魔獣――ウルフだった。
血走った赤い瞳、鋭利な爪、そして、獲物を追いつめる俊敏な動き。
図鑑で見たことはあったが、実物は、想像以上に恐ろしい。
「こ、これは…!」
俺は、恐怖で体が硬直してしまう。
「おい、セプティム! ボサッとしてんじゃねぇ!」
フィンの声が、俺を現実に引き戻す。
彼は、すでに剣を抜き、ウルフに向かって構えていた。
その姿は、普段の飄々とした態度とは打って変わって、真剣そのものだった。
「こいつは、ウルフだ! 気をつけろ、セプティム! こいつらは、群れで行動することが多い。一匹倒しても、油断するなよ!」
ウルフ…。
魔界では、最下層レベルの魔物だが、油断すれば、命を落とす危険性もある。
「くそっ…なんで、こんな時に…」
俺は、慌てて、魔物生成キット(仮)を手に取った。
しかし、こんな状況で、一体、どの魔物を生成すればいいんだ?
スライムじゃ、話にならない。
もっと強力な魔物…例えば、ゴブリンとか、コボルトとか…。
いや、待てよ。
そもそも、俺の魔物生成は、まだ成功率が低い。
こんな緊迫した状況で、まともに魔物を生成できる保証はない。
下手に失敗したら、逆に、フィンに迷惑をかけてしまうかもしれない。
「…どうする、セプティム?」
フィンの声が、緊張感を帯びている。
ウルフは、唸り声を上げながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
その鋭い牙と爪が、不気味な光を放っている。
しかし、俺は、ここで諦めるわけにはいかない。
最強の魔物メーカーになるという夢を、こんなところで諦めるわけにはいかないんだ!
その時、俺の足元で、ブルーが、プルプルと震えているのが目に入った。
小さな体で、必死に俺を守ろうとしているのか…?
その姿を見て、俺は、あるアイデアを思いついた。
「フィン、俺に…作戦がある!」
俺は、決意を込めて、フィンに言った。
「作戦…? おい、まさか…」
フィンは、俺の意図を察したのか、目を丸くした。
だが、今は、そんなことを言っている場合じゃない。
俺は、ウルフに向かって、一歩踏み出した。
「ブルー! 行くぞ!」
俺は、ブルーを両手で抱き上げ、ウルフの目の前に突き出した。
「ガウッ…?」
ウルフは、突然現れた小さなスライムに、一瞬、動きを止めた。
その隙を逃さず、俺は、ブルーに向かって、魔力を注ぎ込んだ。
「ブルー、大きくなれ! ウルフを、驚かせてやれ!」
俺の魔力を受け取ったブルーは、みるみるうちに巨大化していく。
あっという間に、ウルフと同じくらいの大きさになった。
「ぷるぷるっ…!」
巨大化したブルーは、ウルフに向かって、勢いよく体当たりした。
「ドガァァァン!!」
基地全体が揺れるほどの衝撃。
ウルフは、予想外の攻撃に、よろめきながら、後退した。
「よし、ブルー! いいぞ!」
俺は、興奮しながら叫んだ。
しかし、ウルフは、すぐに体勢を立て直すと、怒り狂ったように、ブルーに襲いかかった。
「ガウウウッ…!」
鋭い牙が、ブルーの体に突き刺さる。
「ブルーッ!」
俺は、思わず叫んだ。
だが、次の瞬間、信じられない光景が、俺の目の前で繰り広げられた。
ウルフの牙が、ブルーの体に突き刺さったにもかかわらず、ブルーは、まるで何事もなかったかのように、プルプルと体を震わせている。
それどころか、ウルフの牙は、ブルーの体に触れた瞬間、みるみるうちに腐食し、ボロボロと崩れ落ちていった。
「な、なんだ…?」
フィンも、驚きの声を上げた。
ウルフは、牙を失い、混乱している。
その隙を逃さず、ブルーは、巨大な体で、ウルフを押し倒した。
「グフッ…!」
ウルフは、苦しそうな声を上げる。
ブルーの体からは、謎の液体が分泌され、ウルフの体を溶かし始めているようだ。
「こ、こいつ…一体、何が…?」
俺は、唖然として、ブルーの姿を見つめていた。
小さなスライムだったブルーが、こんなにも強力な力を持っているとは…。




