第31話 安宿暮らしと二人の絆
「…おい、セプティム。ここが、俺たちの宿だ」
フィンが、指差した先は、薄汚れたレンガ造りの建物だった。
看板には、「冒険者の宿 スリーピング・ゴブリン」と書かれている。窓ガラスは割れ、壁にはひびが入り、入り口のドアは今にも壊れそうだった。とても、「宿」と呼べるような代物ではない。
「…え…?ここ…?本当に…?」
俺は、思わず、目を疑った。ルナリアには、もっと立派な宿がたくさんあるはずだ。なぜ、こんなボロボロの宿に…?
「ああ。ギルドの受付に、安くて、安全な宿を紹介してくれって頼んだら、ここを紹介されたんだ。Eランク冒険者向けの宿らしいぜ」
フィンは、説明した。
「…安全…?」
俺は、フィンの言葉を、疑いの眼差しで見た。この宿が、本当に安全なのか、俺には、とても信じられなかった。
「…まあ、大丈夫だろ。俺様が、いるんだし」
フィンは、自信満々に言った。しかし、彼の言葉は、全く、説得力がない。
俺は、ため息をつきながら、フィンの後をついて、宿の中へと入った。
宿の中は、外見よりも、さらにひどかった。薄暗く、カビ臭い。床は、泥だらけで、ところどころに、水たまりができている。
壁には、落書きや、得体の知れないシミが、たくさんついている。そして、何よりも、ひどいのは、臭いだ。汗と、酒と、獣の臭いが、混ざり合った、強烈な臭いが、鼻をつく。
「…ゲホッ…ゲホッ…」
俺は、臭いに耐えきれず、咳き込んだ。
「…おい、セプティム。大丈夫か?」
フィンが、心配そうに、俺に声をかけてきた。
「…あ、ああ…なんとか…」
俺は、涙目になりながら、答えた。こんな場所で、本当に、生活できるのだろうか…?俺は、不安で、胸が締め付けられる思いだった。
その時、カウンターの奥から、ゴブリンの老人が、姿を現した。彼は、片目に眼帯をし、ボロボロの服を着て、杖をついている。
「…いらっしゃい。初めてかね?」
ゴブリンの老人は、嗄れた声で、俺たちに話しかけてきた。
「…あ、ああ…ギルドで、この宿を、紹介されて…」
俺は、ゴブリンの老人に向かって、言った。
「…そうか。なら、Eランクの部屋だな。一泊、銅貨5枚だ」
ゴブリンの老人は、そう言うと、俺たちに、鍵を手渡した。
「…銅貨5枚か…安いな」
フィンが、意外そうな顔で言った。
「…ああ。ルナリアは物価が高いって聞いてたけど、この宿は、特別安いみたいだな」
俺は、財布の中身を確認しながら、答えた。ポイズントード討伐の報酬で、金貨1枚と銀貨3枚を手に入れたが、これからルナリアで生活していくには、まだまだ節約が必要だ。
俺たちは、ゴブリンの老人から、鍵を受け取り、部屋へと向かった。部屋は、狭く、薄暗かった。
ベッドは、藁が敷いてあるだけで、シーツも、毛布も、なかった。窓は、板で打ち付けられており、外の光は、全く入らない。
「…おい、セプティム。ここ、本当に、安全なのか…?」
フィンが、不安そうに、言った。
「…さあ…でも、他に、泊まるところも、ないだろう…」
俺は、ため息をつきながら、答えた。ルナリアでの生活は、想像以上に、厳しいものになりそうだ…。
部屋に荷物を置くと、俺たちは、食堂へと向かった。食堂は、薄暗く、煙が充満していて、テーブルの上には、食べ残しが散乱していた。
客は、ほとんどが、ゴブリンやコボルトといった、下級の魔族ばかりだ。彼らは、酒を飲んだり、大声で騒いだり、喧嘩をしたりしていて、とても落ち着ける雰囲気ではなかった。
俺たちは、空いているテーブルを見つけ、席に着いた。
「…おい、セプティム。何か、食うか?」
フィンが、メニューを見ながら、言った。メニューは、どれも、見た目が悪く、食欲をそそるものはなかった。
「…俺は、いいよ。あまり、食欲がないんだ…」
俺は、首を横に振った。フィンの顔色が、曇った。
「…そうか…」
フィンは、メニューを閉じた。俺たちは、しばらくの間、黙って座っていた。食堂の喧騒が、耳障りだった。
「…なあ、セプティム」
フィンが、口を開いた。
「…なんだい、フィン?」
俺は、フィンに視線を向けた。
「…お前、本当に、最強の魔物メーカーになりたいのか…?」
フィンの言葉に、俺は、少しだけ、驚いた。フィンが、俺の夢について、真剣に尋ねてきたのは、これが初めてだった。
「…ああ。もちろんだ。それが、俺の、生きる目的なんだ」
俺は、迷いなく、答えた。
フィンは、しばらくの間、黙って、俺の顔を見つめていた。そして、小さく、頷いた。
「…そうか。なら、俺様は、お前を、全力で、サポートする」
フィンの言葉に、俺は、胸が熱くなるのを感じた。フィンは、不器用だけど、心優しい、最高の相棒だ。俺は、フィンと出会えたことに、心から、感謝した。
「…ありがとう、フィン。お前がいてくれて、本当に、心強いよ」
俺は、フィンの肩を、ポンと叩いた。フィンは、照れくさそうに、笑った。
俺たちは、ルナリアでの、新たな生活を、共に、歩み始めた。最強の魔物メーカーになるという、俺の夢は、まだ、始まったばかりだ。




