第3話 創造の調べ、最初の壁
「ぐおぉぉぉぉ…!」
俺は、セプティム。イケメンインプで、最強の魔物メーカーを目指している。
廃墟と化したダンジョンの一室を改造した、俺だけの秘密基地。
薄暗くひんやりとした空気の中、ツンと鼻を突く硫黄の匂いが漂う。
目の前の作業台には、魔導裁判所から支給された「魔物生成キット(仮)」が広げられている。
黒曜石のような質感の台座の上で、禍々しいオーラを放つ魂石が、不気味に脈打つ赤い光を灯していた。
俺は、生まれて初めての魔物創造に挑戦しようとしていた。
目標はもちろん、最強の魔物だ。
…と、意気込んでみたものの、生成可能なリストの中で一番弱そうなスライムを選んだのは、ほんの少しだけ弱気だったかもしれない。
だって、失敗したら怖いし!
「でも、この雰囲気…意外とイケるんじゃないか…?」
不安と期待が入り混じる中、俺は、床に描かれた魔法陣の中央に魂石をセットし、周囲に、魔界の沼地の泥と、腐った木の根っこを配置した。
羊皮紙に記された呪文を、一語一句、丁寧に唱えていく。
「来たれ、混沌の淵より生まれし者…我が魔力をもって…汝に形を与えん…」
魂石が、より一層赤く輝きを増していく。
それと同時に、俺の体から、魔力が吸い取られていくような感覚に襲われる。
心臓が、バクバクと音を立て、指先は、冷や汗でじっとりと濡れていた。
しかし、次の瞬間。
「ぐわああああっ!?」
魂石のエネルギーが暴走し、辺りを灼熱の光が包み込む。
俺は、咄嗟に両腕で顔を覆った。
耳をつんざくような爆音と、焦げ付くような匂いが、基地全体に広がっていく。
しばらくして、光と音が収まった。
恐る恐る顔を起こすと、そこには、ドロドロに溶けた泥と、黒焦げになった木の根っこの残骸だけが残されていた。
「……あれ? スライムは…?」
辺りを見回すが、ぷるぷる跳ねるスライムの姿はどこにも見当たらない。
「まさか…失敗?」
羊皮紙をもう一度確認する。
手順は間違っていないはずだ。
魔力の供給量、素材の配置、詠唱…。
俺は、呪文を唱えるテンポを変えてみたり、ほんの少しだけ魔力の込め方を変えてみたり、試行錯誤を繰り返した。
しかし、結果は変わらない。
何度やっても、魂石のエネルギーは暴走し、素材は黒焦げになるだけだった。
「くそっ…何がダメなんだ…!」
焦燥感が、セプティムの胸を締め付ける。
額には、冷や汗が滲み、指先は、かすかに震えていた。
最強の魔物メーカーになるという夢は、こんなにも高い壁に阻まれたのか…。
落胆と疲労感に襲われ、俺は、力なくその場にへたり込んだ。
その時だった。
基地の入り口から、コツコツと足音が近づいてくるのが聞こえた。
「…誰だ?」
俺は、警戒しながら、音のする方へと顔を向けた。
薄暗い通路の向こうから、人影がゆっくりと姿を現す。
「おいおい、随分と派手にやってくれたみてぇだな」
声の主は、鋭い眼光と、茶色の短髪が特徴的な、小柄なインプだった。
彼もまた、俺と同じく、赤い肌と小さな角を持つ、れっきとした悪魔の一員である。
しかし、ボロボロのローブ姿の俺とは違い、彼は黒曜石で装飾された、高級そうな革鎧を身にまとっている。
腰には、鋭く研ぎ澄まされた剣が輝き、ただ者ではない雰囲気を漂わせていた。
「…誰だ、お前は?」
俺は、警戒心を解かずに尋ねた。
「このダンジョンの主、フィン様と呼んでくれるぜ」
フィンと名乗るインプは、ニヤリと笑って見せた。
彼の瞳は、まるで獲物を狙う獣のように、鋭く光っていた。
数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。
気が向きましたらブックマークやイイネ、気に入って頂けましたら
高評価宜しくお願い致します。