儚む人2
「…っ。」
呼吸の苦しさで眠りから覚めた。
鼻水でパンパンになった鼻腔は空気を通さない。
喘ぐような呼吸を繰り返し、ボロボロと涙をこぼす。
不思議な夢をみた。
さっきまで食べていた肉じゃがの味が舌の上にまだ残っている。
動きたがらない身体を無理やり引きずってベッドをでる。
水を飲み、バナナをかじる。
ちゃんと、食べないと。
栄養をとらないと。
わかっていても、これ以上のことができない。
冷蔵庫の前に座り込む。
「…ゲンさん。」
夢の中で出会った、優しい人。
自分の妄想が作り出した、味方。
呼んだって出てくるわけはないけれど。
膝を抱えて丸くなる。
何もしたくない。
『おっす!』
突然頭の中に元気な声が響く。
『…ゲンさん?』
『おうよ!』
病みすぎてついに夢と現実の境が曖昧になってしまったのだろうか。
それでもいいか。
『何してんだ?』
『…何してるんでしょう。』
本当に、何をしているんだろう。
『おっしゃ!そういうことならまかせろ!』
何を?
聞く前に、その変化はおとずれた。
ドンドンドン、とドラムの音が鳴る。
和太鼓か?
心臓を裏側から叩かれているような感覚。
痛みはなく、寧ろ心地いい。
走っている時のような鼓動。
ベースにピアノ、ギター。誰かの歌声も聞こえ始めた。
疾走感のある軽快なリズム。
su○kaとな○わ男子の曲を足して2で割ったような。
『エビとクリの入ったドリア、トロトロサクサクのカニクリームコロッケ』
「…え?」
『甘いタレのすき焼き、脂身コッテリのポークソテー。』
なんで歌詞が全部食べ物なんだ?
『サッパリゆ豆腐、海苔と明太子のパスタ、こんがり焼けたハンバーグ』
リズムに合わせて身体が勝手に動き出す。
『味の染みたホロホロの肉じゃが、ザグザグジューシーな唐揚げ、優しい味のポトフ。』
気がつくと冷蔵庫から適当な食材を取り出し、料理をはじめていた。
『ラー油たっぷりの麻婆豆腐、野菜が美味い塩ラーメン、そして…寿司!』
寿司コールが始まる。
『アナゴ!イカ、タコ、サーモン、中トロ!』
アナゴ!イカ、タコ、サーモン、中トロ!
『イクラ、卵、光り物!』
イクラ、卵、光り物!
『辛い時にはアイスを食べて、泣きたい時にはチョコレート。食べてなんぼの人生だ!』
曲がおわり、目の前にはそこそこきちんとした朝食が出来上がっていた。
「…いただきます。」
身体に栄養を染み込ませるように、丁寧に食べた。