表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

パワハラ上司2

目覚めると、布団の中にいた。

7:30。

会社に行かねば。

コーヒーを飲み、急いで着替えて家を出る。

憂鬱だ。


「課長、資料の確認お願いします。」

嫌な上司に自ら話しかけなければならないとは、会社とは嫌な組織だ。

「…ありえないだろこんなの!」

ほら、またすぐに怒り出す。

「お前、教育係誰だっけ?聞いてこようか?どんな教え方したんだって。」

やめてくれ。

「もっと勉強してから書いてこい。」

「わかりました。」

自分のデスクに戻ろうとすると、課長がまだ話しかけてくる。

「大体さ、これでどうやって顧客を納得させるんだよ。」

「…すみません。」

資料を完璧に仕上げられなかったこちらに非があるのは確かだが、大勢の前でバカにされ続けるほどのことなのだろうか。

なんの学びにもならない時間が過ぎていく。

…そういえば。

『リンカ』

なんて、呼んでみても何かが起こるわけでもないか。

自分が作り出した夢の中での話だ。

また、すみませんと課長に謝りかけたその時。

『ふーん、これが例の上司?』

頭の中で声がした。

『!!』

『何驚いてんのよ。自分で呼んだんでしょ。』

からかうようなリンカの声。

「この資料、間に合わせで適当に作ったろ?見え見えなんだよ。」

尚も続く課長の追撃に、

『うっざ。何こいつ?』

とリンカが吐き捨てた。

『汚いし、合コン会場なら誰も声掛けないわね。市場価値ゼロ。』

合コンという予想外の単語に吹き出しそうになる。

『人間というより動物ね。』

それはそうかもしれない。

実際言葉が通じないことも多いし、コミュニケーションがとれない。

『さて。』

リンカの声色が変わる。

獲物を見定めているような、そんな声。

『じゃあ、はじめましょうか。』

何を、と聞く前にその変化は起こった。

視界にいくつものウィンドウが表示される。

真ん中のウィンドウには、

【課長】:だからお前はダメなんだよ。後輩の高田にでも教えて貰った方がいいんじゃないか?なあ高田。

【高田】:いや、あはは。

と表示されている。

まるでゲームの会話ログのように。

右のウィンドウには

【行動候補】

が表示されている。

『これは…?』

『ゲーム風にしてみたわ。得意でしょう?』

たしかに、ゲームが好きではあるけれど。

【行動候補】をよく読んでみる。

・逃げる(人事部に行き、手を打ってもらう。MP消費5。経時的MP回復効果あり。)

・耐える。(このまま耐える。MP消費30。持続ダメージ効果あり。)

・攻撃する。(攻撃力80。)

『MPって?』

『メンタルポイント。』

左上に表示されたMPはもう残り10をきっていた。

耐えるを選ぶと死ぬな。

どこからか甘い、あの香りがしてくる。

香りが強くなるほど、誰かに背中を支えられているような気持ちになる。

今なら何だってできる気がした。


腹を括って、深呼吸をする。

課長の手から資料を奪い取り、

「失礼します!」

と叫ぶように言い、ドアに向かって走った。

急いでエレベーターに乗り込み、人事部に駆け込む。

「!」

人事部の人達がギョッとしてこちらをみた。

小さな会議室に通され、中年のおじさんが対応してくれることになった。

「えっと、どうしたの?」

これまでのことを全て話すと、

「うわー…典型的なパワハラだね。辛かったろう。」

これでも食べな、とチョコを渡してくれた。

「君はどうしたい?」

「別の人の下に付きたいです。」

「部署はそのままでいいってこと?これからも毎日顔を合わせることになるけれど。」

「それは…。」

新しい部署に行くのもありなのかもしれない。

話し合いはすんなりと進み、結局、経理部に移動することになった。

まともな人との会話はこうもスムーズなのか、と感動さえした。

人事の人とすっかり打ち解け、チョコを食べながらポツリと本音がもれる。

「あー…なんか。辛かったのは事実なんですけど、逃げだしてしまった自分が恥ずかしいです…。もっと上手くやりたかったんですけどね…。」

「逃げてもいいんだよ。逃げられるうちに逃げた方がいい。土俵からおりた人は二度と攻撃されないからね。」

おじさんはお茶をすすりながらにこやかにそう言った。


あれから鎌西課長と顔を合わせることもなくなり、平穏な日々を過ごすことが出来ている。

正直、上司が違うだけでこんなにも違うのか、というほど毎日が豊かだ。

『リンカ』

心の中で呼んでも、出てこない。

お礼くらい言わせて欲しいのに。

足元で小さな子犬が走り回る。

最近飼い始めた、ミニチュアピンシャー。

「散歩か?」

サンポ、という単語に耳をピクつかせ、目をキラキラさせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ