疲涙
疲れた。
あまりにも身体が重くて、崩れ落ちそうだ。
吊革で首をつれば、今すぐに首が折れてしまうんだろうな。
生きることも出来ていない癖に、死ぬことばかり考えてしまう。
死が目的ならそれもいいが、死が手段としてそこにあることが問題だ。
死んだら心配してくれる?
死んだら労われる?
死んだら皆が泣いてくれる?
自分が死ぬ所を想像して自分を慰めるなんて、どうかしている。
五体満足、病気もない。それでもあまりにも息苦しい。
真綿の中で溺れ死んでいくような苦しさ。
この感覚に囚われ続けるくらいなら、いっそのこと…
そんな思いで眠りにつくと、不思議な夢を見た。
「大丈夫か?」
ミーン、ミーンと蝉の声が聞こえる和室。
そこに俺は寝かされていた。
俺を心配そうに見つめるのは大柄の若い男。
ゲンと名乗った彼は、ここは夢の中だと言った。
「何で俺は寝かされてるんでしょうか。」
「そりゃあ、寝てないといけない状態だからな。気になるなら触ってみると良い。」
触ってわかるものなのか?
手探りで自分の身体に触れていくと、思わず「え…」と声が出た。
喉からみぞおちにかけて、身体が粉々に砕けている。
特に心臓のあたりは、ほとんど砂状だ。
萎んだ心臓はほとんど脈がなく、血管もほとんどちぎれていた。
触れても痛くも痒くもないが、逆にそれが不気味だった。
「休むのには食べるのが1番!何か食いたいもの、あるか?」
「…黒毛和牛のローストビーフ。」
「いいね!貰ってくるから、ちょい待っててな。」
ゲンが5分足らずで持ってきたローストビーフは、一言で言うと最高だった。
甘い脂に柔らかい肉、噛むほど溢れる旨み。香ばしい肉の香りと、さっぱりとした後味。いくらでも食べられる。
「塩とワサビがこんなに合うなんて…。」
一緒に食べているゲンも感動していた。
満腹になるまで食べた。
その後は、幸せな微睡みに身を任せた。
朝起きると、俺はまだゲンのところにいた。そして少し身体が回復していた。
食べて、喋って、笑って、眠って。何日かこれを繰り返していたら、ボロボロだった身体はみるみるうちに回復していった。
「しっかし、心臓だけ回復しないな。」
しげしげと俺の心臓を眺めるゲン。
心臓はまだ柿のように萎んだままで、脈も弱い。
俺は心臓に優しく触れながら、
「どうしたらいい?」
と聞いた。
その時。
ーーープチッ!
小さな音をたてて心臓が身体から飛び出た。
そして足のように血管を使い、そのまま逃げていった。
「!!!」
「捕まえろ!!!!!」
ゲンが走って追いかける。
俺も後を追った。




