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パワハラ

「ここは…?」

気がつくと、木造建築の前に立っていた。

仕事から帰って、泥のように眠りについたところまでは覚えている。

江戸時代の長屋のようなたたずまいの建物。

看板に、【邯鄲長屋】とかかれている。

「かん…?…読めない。」

どこからかいい匂いがする。

バニラのような、甘い香り。

甘いだけでなく、どこか切ないような感じもする。

不思議な香り。

長屋の1番手前の部屋から香っているようだ。

その部屋の引き戸があき、女性が出てきた。

「いらっしゃい。」

艶のある黒髪の、凛々しい女性。

「あの…ここはどこですか?」

「夢の中にある、心の避難所ってところかしら。」

「心の、避難所…?」

「ここに迷い込んだってことは、何か辛いことがある証。まあ入んなさいよ。取って食いやしないから。」

誘われるままに部屋に踏み入る。

こじんまりとした和室。

「…ヨギポー?」

あの大人気のクッション、人をクタクタにすると言われるヨギポーが置かれていた。

他にも、抱き枕や可愛らしいクッションなど、ふかふかとした小物が沢山置かれている。

まるで子供部屋のようだ。

「好きなとこに座んなさい。」

女性は真っ先にヨギポーに寝そべった。

とりあえず、近くの丸いクッションに座ることにした。

「それで?話聞くわよ。」

「話と言われても…特にありません。それより、どうしたら元の世界に帰れますか?」

「普通に起きたら目覚めるわよ。」

「なるほど…?」

本当に夢の中なのかもしれない。

「何か辛いことがあるからここに来たんでしょ。その話よ。」

女性がどこからかお茶を取り出し、差し出した。

「どうぞ。」

「…ありがとうございます。」

この甘い香り。このお茶だったのか。

一口飲むと、心がキュッと締め付けられるような、ほっと安心するような感覚がした。

「つらいこと…。強いて言うなら、嫌な上司がいること…ですかね。」

気がつくと、ポロリと言葉が滑り出ていた。

「ろくに話をきいて貰えずにただ怒鳴られて、もっと勉強してこいとだけ言われて。周りに聞こえるようにミスを指摘されるんです。

自分が悪いのはわかっているんです。勉強も努力も不足してるって。もっと頑張れば、こんなことにはならないって。頭ではわかってるんです。

…でも、わかってても…キツイんです。

なんでこんなこと言われないといけないんだ、なんでこんな扱い受けなきゃいけないんだって。頑張ればいいだけなのにそれが出来ない自分も嫌いで。

でもこの環境で頑張るしかなくて。毎日毎日、家を出るのが嫌で。休日も寝る前もいつもずっと、嫌だったことが頭から離れなくて。次はこう言われるんだろうなって、まだ言われてないことまで頭の中で考えちゃって。四六時中責められて、悪口を言われている気分で。」

いつの間にか涙が零れて止まらなくなっていた。

「よく頑張った。」

女性が背中をさすってくれる。

「…もう、無理なんです。」

「うん。」

「…苦しいです。」

「うん。」

「…っ。」

嗚咽が止まらない。

女性はただ、優しくそこに居てくれた。

「辛かったわね。」

優しい声に、はい、と小さく返事をする。

ずっと耐えてきたことを吐き出して、泣いて。自分が思っていたよりも傷ついていたことを自覚した。

「次に辛いことがあったら、リンカって心の中で呼びなさい。」

「…え?」

女性がニヤリと笑う。

「私が助けてあげる。」

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