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キモ告白




チャイムの音にかき消されたせいで、決死の告白ですら不発に終わってしまった。それがヤマダ…日本一の非モテ男である。彼は恋愛ごとに関して何もかも上手くいった試しがない。


ヤマダは高校に入学して以来、同級生の土屋さんに3年間も片思いしてきた。土屋さんと付き合えたら…と暇があれば夢想するも、現実には挨拶すらまともに交わさない程度の薄い付き合いだった。

2年生になったある日、ヤマダは告白する決心をした。まともに話したことすらないが、告白さえすれば付き合えると信じて疑わなかった。どういう論理か理解に苦しむが、ヤマダはバカなので「告白したら答えはイエスかノーの二択のみ。話したことがなくても二分の一の確率で付き合えるのだから、告白してみる価値はある」と本気で思い込んでいた。


告白するぞと決心はしたものの、勇気が出ず、気づけば卒業式を迎えてしまった。

これだけの時間があれば仲良くなれる機会はいくらでもあったはずだが、ヤマダはそれらをやすやすと逃して常に告白することだけを考えていたのだ。

話しかけようとしたことはあったが、常に会話を避ける言い訳を探して距離を置き、「話す余裕があるなら告白しろヤマダ!」と自分の頬を叩いて意味不明な喝をいれた。


告白さえすればいいんだ…。

いつのまにか、告白すれば100%土屋さんと付き合えると信じて疑わなくなっていた。

告白するのにこんなに時間を要したのだから、神様は俺に味方してくれるはずだ。土屋さんの手札にはイエスのカードしかない。


しかし、というか当然、神様が選んだのは土屋さんだった。

せめてヤマダのキモい告白の文言を耳にしないようにと、チャイムが被せられたのだ。


それでもかすかに、ヤマダのモルボルそっくりな唇からこぼれる臭い息に混じった2文字の言葉が土屋さんの耳に届いてしまった。

その言葉が土屋さんの脳に達した時、彼女の脳は生存本能をフルに働かせて、全身の神経にヤマダを拒絶する命令の信号を送った。ヤマダの告白によって、土屋さんの遺伝子に眠っている、人類が常に生きるか死ぬかの状況にさらされていた頃の記憶が呼び覚まされた。


今、土屋さんにとってヤマダとは自分の命を脅かすほどの存在であった。悪手をとれば逆上したヤマダに襲われてしまうかもしれない。仲良くもないのに告白してくるようなガイジなのだから、突飛な行動に出てくることは十分にありえる。


登山道で待ち伏せするヒグマは人の味を知っているから待ち伏せしている。そんなヒグマと真正面から向かい合った時と同等のアドレナリンが、土屋さんの全身を駆け巡っていた。同じクラスのキモ陰キャでしかなかったヤマダが今や飢えたオスのヒグマの成体にしか見えない。土屋さんは汗が頬を伝う感覚にも気づかないほどヤマダに神経を払って注視している。


少々の沈黙ののち、土屋さんは苦い表情になるのをこらえつつ、ヤマダを刺激しないように優しい言葉を選んで断った。



ヒグマが背を向けて歩いていく。土屋さんはキモ男から解放され、今になって恐怖がどっと押し寄せてきて泣いた。

キモ男・ヤマダも泣いていた。土屋さんの優しい言葉が刺さり、これも青春の1ページだと充足感を得ていた。


土屋さんの生存戦略でしかない優しい言葉は、自分への心からの気遣いだとキモ男ヤマダは勘違いしていた。さすがキモバカガイジである。


…これですべてが終わったわけではなかった。


卒業式の帰り道、ヤマダは新たな決心をするのだった。


大学生になったらまた告白しよう。俺はあきらめない。次に告白しても無理だったら、同窓会で告白しよう。土屋さんはあんなに優しい言葉をかけてくれたということは、俺に気遣って彼氏や夫は作らないはずだ。

俺はどんな手を使ってでも、土屋さんを手に入れる。さてどう告白しようか……。



もはや誰にも理解できない思考回路、神様は一刻も早くこの失敗作を人類から剪定せねばと思い立ち、ヤマダの横から大型ダンプを追突させた。


ヤマダが最後に思い出したのは、告白した時に感じた土屋さんの香りであった。


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