ぼた雪の降る夜に
外では、雪が降り続いている。
雪の降る夜がやけに静かなのは、別にロマンチックな何かのせいではなく、積もった雪が音を吸収するためだという。
しんしんと雪が降る、という表現には、ちゃんと科学的な根拠があったわけだ。
そのせいなのかどうなのか、暖房のきいているこの部屋の中までが、音を吸い取られてしまったかのように静かだった。
かしこまった静けさを破るように、わざと少し強めにキーボードを叩く。
書けた。
他愛のない、思い付きだけで書いた掌編だった。
少年が少女と出会い、恋の予感を感じる。内容といえば、ただそれだけの話だ。
本文中では、少女の気持ちには一切触れていない。
手がかりめいたものを散りばめてはいるが、書いた自分でもこの少女が少年のことをどう思っているのかはよく分からない。
だが、それでいいと思っている。
全ての答えを文中に明記する必要はないし、書くときに全ての意図を意識する必要もない。
投稿サイトに掌編を投稿し、それから自作一覧の一番上にそのタイトルが表示されたことを確認する。
これでちょうど百作。いつの間にか、ずいぶんと書いた。
ほとんど手癖のように、過去作の感想欄を開く。
出来の悪い作品も数多あったが、それでもどの作品にも必ず感想を書いてくれていた人がいた。
だが、今ではその人の感想には全て「退会済み」という赤字が躍る。
顔も本名も年齢も性別も知らないその人からの感想が届くことは、もう二度とない。
ネットの世界は一期一会だ。
明日以降も今日と変わることなくずっと続くと思っていた関係が、突然にふつりと途切れる。
途切れた理由も分からないままに。
寂しいが、それが気楽であることもまた事実だ。
だからこそ、自分だっていつ消えてもおかしくはない。
そのときはやはり、まるで最初からそこにいなかったかのように消えるのだろう。
けれど。
パソコンの前を離れ、カーテンを開ける。
眼下で、街灯に照らされた夜道がなだらかな白に埋め尽くされている。
降っているのはぼたゆきと呼ばれる、かまくらや雪だるまを作るのに向いた重く湿った雪だ。
明日の朝には、今よりももっと積もっていることだろう。
あなたの街にも、雪が降っていますか。
どこかでこうして、雪を見ていますか。
決して答えの返ってこないそんな問いを白い道に投げかけ、それからカーテンを閉める。
明日は、雪かきだ。
いつもより一時間早く起きよう。
こんなお話を書いたら、レビューをくださった方まで退会されてしまった……。
いろいろと考えさせられますね、本当に。