メモ用紙の代用品に想いを込めて
『ブランカちゃん、これなに?』
とある休日の夜中どき。病気で声が出せない18歳のオオカミ獣人・ルゥは、恋人であり番の人間であるブランカからとあるものを渡された。
ルゥは疑問に思った事を書いたメモ用紙を彼女に見せると、ブランカは嬉しそうにニコッと笑った。
「これはですね。ホワイトボードと呼ばれるものです」
『ホワイトボード?』
あまり聞き慣れない言葉に、メモ用紙を片手にルゥは首を傾げる。とりあえずホワイトボードを触ってみたが、白いツルツルとした板の周りには白い額縁があり、持ち上げると軽くて手にフィットして快適そうだ。
「このホワイトボードは、ベリアルさんの奥さんから貰ったものなんですよ。だから知らなくても無理ないですよね。私も奥さんから渡されて初めて知りました」
『へぇ〜、ということは異世界のモノってことなんだね』
「そうですね」
熊獣人でルゥの勤め先の上司であるベリアルは、異世界からやって来た女性と結婚している。
なんでも彼女は、ルゥ達が見た事も無い異世界の料理や食材や便利グッズ等を生産しては、目まぐるしくこの国に貢献しているという。
つまり、ホワイトボードもそのうちの一つなのだろう。
『でもこれ、どうやって使うの?うーん、なんだろう…』
「あ!そういやこれの存在忘れてました。ジャジャーン!」
そう言ってブランカが取り出したのは、見たことあるようなないような黒くて太いペン。しかもキャップの部分が広くて先端にブラシのようなものがある。
それを彼女は笑顔でルゥに手渡した。
「実はこれ、この専用のペンで文字を書くものなんですよ!しかも、このキャップのブラシで文字を消せるんです!」
『えっ!?』
「メモだといちいち紙をビリビリ破かないといけないですよね?それだといちいち書くのに手間が掛かるって事で、奥さんがルゥさんのために作ってくれたんですよ!」
『すごい!』
ホワイトボードが、まさかそんなに便利な道具だったとは…!
ルゥはメモ用紙を置き、ホワイトボードを上に掲げて、パアァと目を輝かせた。と思うと、カチッと何か音がして、また首を傾げる。
そして、ホワイトボードの横にペンがくっついている事にさらに驚いて、口をポカンと開けた。
「………!………!!」
「ふふっ。ルゥさん、驚いてますね。不思議ですよね、これ?はい、メモ用紙どうぞ」
『ありがとう!でもこれ、くっついてるよ!?なんで!?』
「実は、ペンの先に磁石がついていて、金属が中に入っているホワイトボードにくっつくようになっているんです。これでペンを無くしたりはしませんし、持ち運びにも便利ですねっ!」
「っ!!!!…………!!!」
よっぽど嬉しかったのか、立ったままルゥは右回りにくるくると回り出した。尻尾も同じくブンブンと左右に揺れまくって、喜び様が半端ない。
ブランカは彼の喜び様に、よかったと安堵の笑みを浮かべた。
「ルゥさん。試しにホワイトボードに何か文字書いてみて下さい。メモ用紙も置いて貰って…」
『え?でも、今使ったらインクがもったいないし…』
「大丈夫ですよ。このペンのインクは簡単に作れるそうなので、たくさん使ってください」
『…わかった』
ブランカに声をかけられたルゥは、ピタっと立ち止まってブランカを見た後、ホワイトボードに視線を戻して何を書くか考えた。
(どうせならいつも言わないのがいいな。でも、ふざけたのは書きたくないし…。あ!じゃあ、あの言葉にしよう)
ルゥは徐にペンのキャップを開けてホワイトボードに文字を書き始めた。
そして、渾身の出来だと言わんばかりにドヤ顔でブランカにその文字を見せた。
『ブランカちゃん、ありがとう!愛してる!』
これでブランカは絶対喜んでくれるだろう。
そう思ってブランカの顔を見ると、彼女はまるで茹でダコの様に顔を赤くして口を開け、呆然としていた。
思わず、ルゥも釣られて顔を赤くする。
「………」
「…あ、あはは…」
しばらく2人は顔を赤くしたまま立ちすくんでいたが、ようやく落ち着いたのか、ブランカが先に声をかけた。
「あ…も、もうそろそろ寝ましょうか」
『うん、そだね…』
ルゥはホワイトボードに文字を書いて、それを机の上に置く。
結局、2人は何もすることなく、同じベッドで寝たのだった。
※※※※※
次の日、意気揚々とホワイトボードを持って出勤したルゥに職場の仲間が群がり、「ホワイトボード便利!これは職場で使えるぞ!さすがベリアルさんの嫁!!」とホワイトボードを絶賛。
そして瞬く間にそのホワイトボードが国中に広まったのは、また別のお話。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
声が出せないルゥくんの病気については、ムーンライトノベルズの方に短編がありますので、R18大丈夫ですよって方がいたらぜひ読んでみてくださいね(⌒▽⌒)
「ネズミトリ」という名前で作者名を検索すれば出てくると思います。
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