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第1章 農夫の子(7)

10

 父の腕の状態は思ったよりは深刻ではなかった。あくまでも、生命に関してという意味ではあるが。


 ルシアスの「魔法」によって、出血は食い止められていたが、二の腕から先がもう戻らないことはあきらかである。昨日見たあの異形のやつらなら、もしかすれば、切り落とされた腕でさえも、また生えてくるのかもしれないが、父は人間である。切り落とされ無くなってしまった腕が生えてくることは一生ありえない。


 家に到着後の母の処置は非常に的確かつ迅速であった。ベッドに横になった父に、何かしら呪文めいたものをつぶやくと、 父は急激に意識を失った。その後、とりあえず応急的に傷口にまいていた衣服の一部を切った包帯をはがすと患部をよく洗い、そこに手をかざした。はたして、ルシアスがやって見せたよりもさらに明るい光が父の腕と母のてのひらの間に輝きだす。そして、数秒後、光は消えた。


「さすがだな、メイファ。魔法の腕は衰えていないようだ」

ルシアスが言う。


「久しぶりにやったから、少し疲れたけどね。これで、あとは体力が戻れば傷口も徐々に再生するでしょう。この人なら、3日もすれば、働きだすわ」


そう言って、私のほうを見やり、

「アル、私のこの力や、お父さんのことなど、いろいろと話さないといけないことができたわね。でも、今日はまず、夕食にしましょう。それから、明日、お父さんが気が付いたら、話をしましょう。ルシアスも、当然、付き合ってくれるわよね?」


 これにはルシアスも拒絶できないようで、観念したように目を閉じてうなずいていた。


 次の日の昼前頃、父は目を覚ました。さすがの父も片腕を失っては、いつものように、早朝から起きて、牛舎の掃除などできるわけもなく、代わりに、ねぐらにいてもなかなか寝付けないまま横になっていた私は、朝日が昇るのを待ちきれずに、牛舎の掃除をやったり畑に野菜を取りに行ったりとバタバタとして午前中を過ごした。父が目を覚ますのが待ち遠しかった。


 台所にあるたいして大きくもないテーブルを囲むように、父母、ルシアス、私の4人が着席する。


 じゃあ、なにがあったのか詳しく聞かせてちょうだい、と母が切り出した。


 父は、傷口の痛みをこらえながら、開口一番、面目めんぼくない、と言った。


 母はその父を少々怒気をはらんだ目で見やると、それはもういいわ、奴らがまた現れたのね、と核心をついてきた。そして、ルシアスのほうを見て、あなたはある程度予想はしていたのよね、と聞く。


 ルシアスがウチに来てから今日まで3日間、私には、とにかく頭が追い付かないほどの状況の変化である。


 風変わりな男は、父母の旧知の人物であり、父は武器を木から作り出せる技術を持っていて、私はそれを扱えるぐらいに鍛えられており、ルシアスは「魔巣」や「奴ら」に対応する力や「魔法」が使える、その上、「魔法」を使えるのはルシアスだけでなく、なんと、母までもが扱える。しかも、魔力量はルシアスのものをはるかに凌駕するのだ。


 自分で思い返してみても、やはりまだ整理が追い付かないでいる。その上、父は私をかばって利き腕を失ってしまった――。


「まぁなぁ……。そうでなければいいのだがと、祈ってはいたんだがな」

さらに続ける。

「小鬼と大鬼が居やがった。幸い魔巣コアも破壊したから、あそこにはもう魔巣も現れないだろうが、一つあるってことは、ほかにあってもおかしくない状況になってしまった。王国に戻ったらすぐに各地方に斥候せっこうを走らせ、最近の異常事件について洗わなければならない」


 つまり、この国のほかの地域でも今回のような異常事件があれば、それが、「奴ら」の仕業であるかもしれないと、ルシアスは言っているのだろう。


 もしそうなら、対抗勢力を募る必要がでてくるし、君たちのことも招集する必要があるだろうと考えてはいた、ということだった。


「来てくれるかどうかは別としてな」

そう言ってルシアスは息をつく。


「だが、ダジムがこうなってしまっては、招集は不可能だ。王国にも若い兵たちや、それなりに使える傭兵たちもいる。まぁ、なんとかするさ」


 片手ぐらいなくとも、そこいらの兵よりは充分戦える、と言いたいところだが、さすがに利き手を失って前のように戦うことは無理だと言わざるを得ん、逆に負担になるだけだろう、俺はせいぜいこの町の周辺を警護するぐらいが関の山だろう、

「そのためにも、メイファにはここにいてもらわなくてはならん」

と父。

「無念だが、招集に応ずることはできない」


「そうね、この地域の警戒は私たちに任せて、あなたはほかの地域の対応をしてくれるのがいいわ、小鬼ぐらいなら、この町の人と協力すればなんとかなるでしょう。それより、ルトに速く知らせて、早急に対応策を講じたほうがいいわ。他の地域には、まだ“やつら”へ対抗できる戦力は整ってないんだから。」

母である。


「そこで、提案なんだが……」

ルシアスが切り出す。


「アルバートを俺に預けてはくれないか?」

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