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第6章 胎動(6)

6

 私とケイティは兄妹なのか。

 

 この答えは出ない。


 母もこれについてはわからないとしか答えられなかった。なぜなら、あくまでも一緒に保護されたというだけであり、生みの親がわからないからである。

 確かに状況的にはそう考えるのが自然であるともいえるが――――。


「一つ言えるとすれば――、あなたたちの魔素の波動は全く違うものだということぐらいね」

母はそのような表現をした。

 それは私にもわかる。


 人には少なからず魔素が備わっていることは何度も述べている。この魔素は体内をめぐっている「流れ」を形成しているのだが、流れ方がそれぞれに違うのだ。

 実際、親子の流れはよく似ていることが多い。なんらかの理由があるのかどうかは不明であるが、そのような傾向があるのだ。


「そうね、私もあなたたちが兄妹だとは感じないわね。今、メイファの話を聞いて驚いているのは私も一緒よ」

アリアーデも賛同する。

「だから、どうしてあなたたちが一緒に保護されたのか、これを解き明かさないと、その謎は解けないわね」


「二人の封印は解かれているのね……。溢れるような魔素が見えるわ」

メイファが言った。


「結構大変だったのよ。あなたの封呪の魔法、ちょっと問題があってね。術式に欠陥があって、魔素の育成を阻害するだけにとどまらず、魔素の過剰な放出が起こっていたのよ。まあ、あなたのことだから、それも承知のうえで、時機を見てすべてを話す時が来ることは覚悟していたのでしょうけどね」

アリアーデが薄く笑みを浮かべながら、メイファの本心を推し量るように言った。


「そうね、その前にあなたに出会って、こうなるとは……。少し予想外だったわ」

そう言って、

「ありがとう、アリアーデ。この子たちの力になってくれて。本当に感謝しているわ」

と言って話を締めくくった。


 ここまでが、メイファが知るすべてである。


 問題は王都への推参の件である、それが目的でここまで来たのだ。


「――で、王都への参内の件だけど、ガルシア王の手前、出会いにくいのはわかるけどなんとかならないかしら」

アリアーデは飄々(ひょうひょう)と尋ねる。

 いつもながら、師匠このひとのこの図太ずぶとさには感服する。これも年の功というやつだろう。百数十年もいきていればそんな問題は些細なことなのかもしれない。


「メイファ、とにかくこれ以上ルシアスやこの子たちだけに背負わせるわけにもいくまい――。エリシア神の思し召しというものがあるのなら、俺たちにもその役目があるのかもしれない。ルトにはいずれ出会わなければならない、そういう運命さだめなのだろう」

そう言って父が母の背を押した。


「そうね――。ルトにはいつか詫びないといけないとは思っていたわ。ルシアスが来たときには、もう居所が知れてしまったから、そこは覚悟していたのよ。でも、ルシアスはルトに伝えず、私の気持ちが決するのを待ってくれた。そのルシアスが私を必要としているのだから、もう応えないわけにはいかないわよね。私は一度、彼の期待を裏切っているのだから――」 

それに、すべてを話したら、ルトとのことにもちゃんと向き合えるような気がしてきたわ、と父の方を見て微笑んだ。


――――――


「私、思ったんです――。アルのご両親は本当に互いに支え合って愛し合っておられるのだろうって……。私の父母も私が帰ったとき本当の子のように迎えてくれました。私は聖堂に入る前に出自について知らされていたんですけど、それでも父母を本当の親と思っていることには変わりはありません。私の父母もアルのご両親もたぶん変わりないのだと思います……」

ソルスから王都へ帰還する道中、ケイティはアルにそう言った。


「僕も、そう思う。少なくとも僕が物心ついた時にはもう二人は完璧な夫婦で、完璧な父母だった。だから、どっちだってかまわないと思えたんだ。それに――」

私は何かを言いかけたが、その先は、霧の中に吸い込まれていくように消えてしまった。


「それに?」

ケイティは不思議に思って聞き返してきた。


「いや、なにかを思ったんだけど、なんだったか忘れてしまった――」

そう私が答えると、


 変なの、といってケイティが弾けるように笑った。

 私はその笑顔を見て、とてもすがすがしい気持ちになった。

 

 チュリはそんな二人のやりとりを見て、胸が痛くなるのを感じていた。


――――――


 数日後、エリシア大聖堂から先に戻っていたルシアスとレイノルドに、アルたちが合流し、今回の旅の結果を報告し合った。

 

 そしてそれをまとめて、ルシアスはガルシア王へ報告に来ていた。


「そうか――。とにかく、これでようやく準備の初期段階はクリアして、これからが本番ってところだな。イレーナ、この先もよろしく頼むよ」

ガルシア王はルシアスの報告をすべて聞いたうえで、眉一つ動かさずにそう言った。


 イレーナは、ルシアスの報告を受けて、驚くことばかりであった。この男は本当に王都の守護者たるにふさわしい。その判断力、行動力、そして洞察力、戦闘力、指揮能力……。

 数え上げれば枚挙にいとまがないほどに、素晴らしい能力の持ち主だと改めて思い知らされる。

 王の信頼が厚いのも納得できるというものだ。私も負けてはいられない、そう心を新たにさせられる。


 殊に、メイファレシス・ケルティアンの所在について、このタイミングで報告するという情報開示の時期の選定は見事であった。

 もしこのタイミングでなければ、ガルシア王の振る舞いや心根はこのように穏やかではなかったかもしれない。

 だが、これは彼のこの立ち位置(やくわり)だからこそできるもので、イレーナの立場でできることではない。なぜなら、イレーナは諜報が役目ではなく、王の参謀つまり、相談役なのだからだ。相談役は常に王と情報を共有するべきであると常々思っている。だからこそ、知った情報はすぐに王に伝えねばならない。知ったうえで、報告する時期を選定するということをしてはいけないと思うのだ。そしてそれこそが彼女の真の価値でもある。

 ルシアスとイレーナは、ガルシア王にとってまさしく表裏の関係といえるのである。


「あとは、ルシアス。お前の方の準備だな。それが整い次第、作戦決行ということになる。どうだ? いつ頃いけそうなんだ?」

ガルシア王は核心に迫った。


「そうだな……、残り時間も少なくなっていく、ゼーデは1年と言っていたが、それはよくって、という意味にもとれるからな。もう半年以上が経過している、そろそろやらねばならないだろう……」

竜人の世界(むこう)の情報は今は皆無だからな、ただ、もし『世界の柱』がやつらの手に落ちていて、その破壊が目的だったとすれば、すでにこの世界は消失しているのだろうから、そこまではいっていないともいえる。

 確保がどれだけ容易にできるかという意味では、早いに越したことはない。もどって詳細を話し合ってまた報告する、ルシアスはそう言って、執務室を去っていった。


「メイファが見つかって、よかったですね、陛下」

イレーナは締め付けられるような胸の苦しみを悟られぬように、そう告げた。


「ふ……。思えば長い旅であった……。恥ずかしくもあるが、この年になってようやく、一つの恋が終わったよ……。いや、もう終わっていたことに納得できるのにここまでかかったというべきだろうな。わかっていたんだよ、メイファが王都を去ったとき、私の想いはもう遂げられないということをな。それに納得するのに、こんなに時間がかかるとは、私の人生において一番の大仕事であったわ――」

そう言ったガルシア王の表情は、寂しげでもあったが、どこか晴れ晴れとして、とても潔くも見えた。


 その表情を見たイレーナはもうこらえられなくなってしまった。

 やはり、私はこの人を愛している――。


 そう思うと、知らぬうちに涙があふれてきた。


――? 

「イレーナ、どうして君が泣いているのだ――?」

ガルシア王はイレーナの反応に戸惑って狼狽した(うろたえた)。 


 イレーナは涙を隠すことなく、穏やかに微笑んでこう答えた。


「一人の女として、あなたを愛しているからです」


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