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第6章 胎動(3)

3

 私たち4人は夕刻テルトーに到着した。

 ケイティにとっては大聖堂へ入門して以来初めての帰郷となった。約5年ぶりの帰郷である。

 ケイティのみ実家へ帰るということで決定した。ぜひみんなで、というケイティの言葉もあったのだが、この面々――放浪の剣士とローブ姿の異人風女性に盗賊のようないでたちの少女――で押しかけると、ご両親もいぶかしく思うだろうということで、あくまでも巫女修行の一環と、大聖堂のお使いとして、ソルスに向かう途中だということにしておこうということになり、私とチュリとアリアーデはドルレアンの宿で泊まることにした。


――――――


「おお、久しぶりだな、若いの。今回はルシアスとは別行動かい? それともルシアスからアリアーデを奪っちまったか?」

ドルレアンは相変わらずの調子で、出迎えてくれた。


「何言ってるのよ、ドリー。そんなわけないでしょ、ルシアスは別の用事で大聖堂へ向かったわ」

そうアリアーデが応じると、目ざとくもう一人の少女に声をかける。


「嬢ちゃんは、初めて見る顔だねぇ。どうしてこんなやつらと関わっちまったのさ?」

そう言って、冷やかしにかかる。


「ウチは、チュリだよ。アルのお嫁さんになるんだ」

さらりと言い放った。


「アル、ほんとかよ? お前も隅に置けないやつだな? 初めて来たときからえらい変わりようじゃないかよ、今度は女連れとはなぁ」

ドルレアンはそういって高らかに笑う。


「やめてください、そんなつもりはありませんよ。こいつが勝手に言ってるだけですから。本気にしないでください」


 まあ、元気ならいいさ、うまいもんでも食わせてやるよ、あとでバーに来な、などと声をかけながら部屋の鍵を渡してくれた。


――――――


 ケイティは実家の前まで帰ってきていた。

 突然帰ってきたらびっくりするだろうなぁと思いながら家の扉を引き、声をかけた。

「ただいま~……。お母さん? ケイティです……」

そろりと中へ入ると、奥の方から声がした。


「は~い。どちら様? 何か御用……」

そういいながら現れた母は一瞬雷に打たれたようにたたずんで、

「――ケ、ケイティ? どうしたの、あなた? ほんとにあなたなの?」

そういいながら近づくとぎゅっと愛娘を抱きしめた。


――――――


 チュリが食事のさなかから、私の部屋で寝ると言って聞かなかったが、それも食事が終わるころには眠気に襲われて静かになっていた。

 チュリの年齢は14歳という事らしいので、大人ぶってはいるが、やはりまだまだそこは子供だという事だろう。

 結局、食事が終わってゆっくりとしているうちにこらえきれずに眠ってしまった。

 私はチュリを背負って彼女の部屋へ連れて行き、ベッドに転がして毛布を掛けてやった。

 寝顔を見ている限りは、なかなかかわいいやつなのだが、どうしたってその、男女の関係を想起させるような思いは抱けない。まあ言うなれば、「妹」のような感じの方が強い。

 彼女の想いに応えることはできなさそうで申し訳なくも思うが、こればかりは致し方ない。

 そのうち、彼女にもいい人ができることを祈るばかりだ。


――――――


 翌朝、村のはずれで落ち合った私たちはさらに北を目指して歩を進めた。

 ケイティには本当はもっとゆっくりさせてあげたかったのだが、そのことを彼女に話すと、長く居すぎると却って別れづらくなるから、このぐらいがちょうどいいのだと言って微笑んだ。

 

 街道に沿って北へ向かう。冬も終わりに近いとはいえ、まだまだ冷えるため、どうしたってある程度の時間ごとに暖をとらないと凍えそうになってしまう。私とケイティはそんな休息を利用して、変わらず魔法の訓練を続ける。

 訓練を始めたころは、魔素の消耗が激しく、体力も消費してしまうこともあったが、それも今はもう起きなくなっていた。解封の儀以降明らかに魔素量が増大したことも影響しているのだろう。


 そのあとはチュリの特訓だ。剣術の訓練に至ってはすべてが反復練習の繰り返しであるが、それも実戦形式でやるのが一番成熟が早い。私もこうやってルシアスの剣戟を何度受けたことか――。

 剣術の基本は防御である。相手の攻撃をしっかりと受け切ってこその攻撃なのだ。 

 受け切れば、相手は必ず止まる。それを見逃さずにすかさず反撃をするのだ。

 それを可能にするためには、ひたすら相手の攻撃を受け切る訓練をするのが一番である。

 なので、どうしたって未熟なものが受け続ける一方的な展開になりがちである。ルシアスとの稽古では私が一方的に撃ち込まれてそれを受けるという状況が2か月ほども続いた。その間、ルシアスはひたすらに撃ち込み続けた。

 チュリの稽古を始めたころ、それは私の役目だった。やってみてはじめて理解したのは、撃ち込み続けるということがどれほど体力を消耗することなのかということだった。これは私の訓練でもあったのだ。

 そのチュリも今では折につけ反撃してくることもできるようになっていて、私もつい力が入りすぎてしまうことも出てきている。大した才能だ、と私は思っている。この娘は強くなる。


 そんな感じで旅程を進めているため、歩調は自然ゆっくりとなる。

 一行がソルスに到着したのは日が沈んでからすでに1時間ほどが経っていたころだった。

 幸いにして、このソルスからの異常事件の報告はこれまでなく、私たちがソルスに訪れる機会もなかったので、私が帰郷するのは実に約2年ぶりとなる。そう、あの日以来の帰郷なのだ。

 

 そして、これから出会う人にこそ今回の旅の目的があるのだ。

 

――――――

 

 ソルスの町はすでに日が沈んでいたため表に人影は見当たらなかった。通りを進んでいると、周りの家々から何やら話し声が聞こえてくる。みんな食事の支度でもしているころだろう。

 しばらく通りを歩いていくと、ルシアスと初めて出会った広場あたりに来た。ここがすべての始まりだったなと、感慨深いものがある。

 口には出さずに、目的の場所へと向かう。

 懐かしい建物が見えたとき、私の心は早鐘を打つように緊張し始めた。二人とも変わらずにいてくれているだろうか? 何かあれば連絡があるはずだから、何もないということは変わらないということだろう、などと自問自答しながら、近づいてゆく。


 扉の前まで来たとき、一瞬逡巡した(ためらった)が、周りのみんなの存在が後押ししてくれた。

 

 私はその家の扉をたたいて声をかけた――。

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