第5章 解放(11)
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王城闘技訓練場――。
普段は衛兵の修練場となっているこの場所であるが、今日は完全封鎖されており、 闘技場内には、ガルシア国王、イレーナ、ゼーデ、ルシアス、アリアーデ、アル、レイノルド、チュリ、そして、ケイティの8人だけしか立ち入りを許可されていない。
衛兵隊隊長とその部下たちは、各闘技場の入り口の警備に配置されている。
ゼーデの魔素もこの半年間で充分に回復していた。
そしてその半年間で、【魔封石】なるものの開発を進めていたが、それも完成したらしい。
封印の解呪の儀をだれが執り行うのか、ゼーデとアリアーデが協議した結果、ゼーデが行うということで決定した。アリアーデは不測の事態に備えるということだ。
まず私からということになった。
私は言われるままに闘技場の中央あたりに立ち、あとは自身の魔素の制御に集中するように言われた。
私の周りに6つの石が置かれている。石は青く輝いており、雫のような形状にカットされていた。大きさは手のひら大ほどだから、結構大きい。
そして、その6つの石と私が立っている場所の周囲には、張り巡らされた奇妙な文様―魔法陣―が、地面の上に描かれている。
「では、始めるぞ――」
ゼーデはそういうと、何やら聞き取れぬ言語で、術式を開始した。
ほどなく、周囲の魔法陣が金色の光を発し、その光が私を包み込む。やがてその光は私の方へと収束を開始した。
ちょうど私の鳩尾のあたりに光は渦となって収束してゆく。
痛みは感じない。が、体内にこらえきれない熱さを感じ始めた。
「――!」
必死にその熱に耐えながら、魔素の制御に集中してゆく――。
光の渦が私の体内においてもどんどん収束していくのが感じられる――。
ぐっ――ぅゥゥウ!
そうして最後に「一点」に収束するのを感じた瞬間だった、そこで何かが弾けたような感覚がおこり、そこから今度は一気に何かがあふれ出す感覚に襲われる――。
「ううぅぅぅぉぉおお!」
私はさらに集中して自身の中から湧きたつ、これまでに感じたことのない大きな魔素のうねりを必死に制御しようとする。
「しっかり! 制御するのよ! アル!」
アリアーデの声が聞こえた。
やがて、そのうねりは徐々に穏やかになり、風のない日の湖の水面のように穏やかな揺らぎとなって、自身の体内へと制御することができた。
もう熱は感じない。ただ、あふれるように湧き上がる魔素量に、若干酔ったような感覚に襲われた。
私はその酔いにこらえきれずに、その場に膝をついた――。
「ふぅ……、成功のようだな。アルの場合は魔封石は必要なかったようだ」
ルシアスの方をゼーデが見やって、目で儀式の終了とアルの介抱を促した。
ルシアスはレイノルドに声をかけ、二人で私を両脇から抱えて、魔法陣から連れ出してくれた。
酔いがまだ癒えないが、意識ははっきりしている。
「あ、ありがとうございます」
そう言って二人に礼を述べる。
次は、ケイティの番だ。
「ケイティ……、まず初めに体内に熱を感じるけど、これは痛みはないから安心して……。その次に、渦が体内に収束していって、やがて弾ける。そこから一気に魔素があふれ出す、その時が一番きついから集中して。あとは制御できれば体内の熱も魔素のうねりも感じなくなる」
私は、とりあえず言葉で説明できる範囲で妹弟子に経緯を説明した。
ケイティは、深く頷くと、先ほどの私と同じように、魔法陣の中央へと進んだ。
――――――
「では、始めるぞ、ケイティ」
ゼーデがケイティに最終確認の声をかける。
「はい……、お願いします!」
ケイティはしっかりした口調で応え、タクトを右手に持ち、両足をすこし開き気味にして備える。
ケイティの心の準備が整ったのを確認すると、ゼーデは術式を開始した。
魔法陣が金色に輝きだし、やがてケイティを包むと、その光は渦となりケイティの体内へと収束を開始する。
ケイティは眉間にしわを寄せながら体内で感じる熱に耐えている。
やがて一点に収束した瞬間、一気に魔素があふれ出すのが見て取れた。
「ううううああぁぁぁぁううぅぅ……!」
たまらずケイティが声を発する。
魔素は大きなうねりとなってケイティを取り巻くと徐々に広がってゆく――!
「ケイティ! 制御して!」
アリアーデが叫ぶが、うねりはさらに大きくなってゆく――。
「いかん! 魔封石を発動させる!」
ゼーデがさらに術式を唱えだすと、ケイティの周囲の6つの石が輝きを放った。
魔素の流れが変わる。
ここまでケイティを取り巻き大きく氾濫していた魔素の一部が周囲の6つの石へと収束を開始する。
「ケイティ! 集中するんだ――!」
私もたまらず大声で叫ぶ――。
「っくぅぅぅぅうううおおおぉぉ――!」
魔法陣の中の魔素のうねりはケイティと6つの石へと収束を加速してゆく――。
その時だった――!
パッシャ――――ン!
石の一つが弾けて砕け散った、そして次の瞬間また一つが弾ける!
ケイティは、まだ中央で苦しそうにしている。
(まだか? まだ終わらないのか? 早くしないと――)
私がそう思った時だった。
ケイティは、中央で耐えながら、タクトをふわりと振るった――。
次の瞬間、魔素が動きを止める。制止したのだ。これまでのうねりが嘘のように、完全に制止した……。
さらにふわりとタクトを振ると、その動きに合わせるように流れが形成された。
そうして、ケイティは、まるで音楽を奏でるようにタクトを振るってゆく――。
周囲の魔素は完全に彼女の意のままに流れを生み出している。
そうして制御された魔素はやがてス――ッと彼女の中へと収まっていった――。
――――すべてが終わった、そう思った時、ケイティが中央で崩れ落ちる、私はあわてて駆け出して彼女を支えた。
「あ……、アル、私……、やったの、かな?」
そう言って私を見上げた彼女は、疲労困憊ではあったが、満足げに薄く微笑んだ。
「ああ、君はやり遂げたんだよ。もう心配しなくていいんだ――」
私はそう言って微笑み返した。




