星花祭の日がやってきましたぞ
第66回星花祭の日。一日目は本来は生徒だけで行われる学内イベントなのだが、今年から保護者と、同日に開かれる学校説明会の参加者に限って入場が許可されるようになった。昨年は学校説明会を二日目に実施したが、来場者数が多い中での開催となり苦情が出たため、空いている一日目に来てもらうことになった。また生徒の保護者からも混雑が酷すぎると苦情があったため、同じく一日目から来られるようにしたという次第である。
とはいえ我の実家は県外にあるので親が来れるはずもない。別に来られなくとも構わない。我は我のやるべきことをするだけだし。ただ、今年はその目的が全く違うものとなっている。
『ピーパー先輩、ピーパー先輩。こちら本部。聞こえますかどうぞ』
無線機を通じて、須賀野殿の下僕……もとい忠実な後輩の舩木殿の声がした。
「聞こえますぞ、どうぞ」
『今どちらにおられます? どうぞ』
「体育館裏ですぞ、どうぞ」
『状態はいかがですか? どうぞ』
「生徒は一名もおりませんぞ、どうぞ」
『了解しました。今から委員を一人そちらに派遣して見張らせますので、先輩はいったん風紀委員室に戻って休憩をとってください。以上、本部』
調査を任されているとはいえ、我が身は風紀委員によって管理されていた。途中でシェイクを回し飲みしているカップルに出くわし、撮影したいという衝動が湧き上がったものの須賀野殿の鬼の形相を思い浮かべてしまったから、泣く泣く風紀委員室に向かうことにした。
「かし……ピーパーただいま戻りましたぞ」
「ご苦労」
迎えたのは須賀野殿である。奥のデスクでは前風紀委員長の雪川静流先輩が座っている。生徒会の代替わりとともに引退したが、星花祭でのトラブルに備えて経験豊富な先輩が助っ人として呼ばれていた。
そしてもう一人、雪川先輩の隣に寄り添うようにして座っている。その人は部外者であり、雪川先輩の恋人である火蔵宮子先輩であった。
「異常はあったか?」
「見回り中に異常はありませんでしたぞ」
「わかった。では休め。食料もこちらで用意してある」
部屋の端、委員たちの作業用デスクに出し物のフランクフルトにポップコーンといった食べ物と、飲み物が置かれていた。
「おおお、須賀野殿にも人の情があったとは……」
「何か言ったか?」
「いえっ、何もありませんぞ!」
「これは私が用意したのではない。礼はアレに言え」
須賀野殿がアレ呼ばわりして親指で差した方向に、火蔵先輩がいた。
「静流、わたくし、すっかり嫌われちゃってるみたいだわ」
「はあ……須賀野さん。宮子は先輩なのだからもう少し丁寧な態度で」
「必要ありません」
「あなたが思っている程危険人物ではなくなっているのよ? 去年はそのまあ、最後にあんなことになっちゃったけど……」
雪川先輩は昨年の星花祭で合同ライブの司会進行を担当していたが、ライブ終了後にマイクを切り忘れて火蔵先輩との恥ずかしくも甘いやり取りがリークしてしまった。しかもこのライブは全世界に動画で配信されており、毒食わば皿までとばかりにヤケクソ気味に結婚宣言したものだからとんでもない騒ぎになったのがつい昨日のことのように思い出される。
「人は簡単に変わらぬもの。もっとも、縁楼寺で修行すれば話は別ですが」
「それは……私たちへの脅しと受け取っていいのかしら?」
「いえ、私の体験談です」
我には脅しにしか見えなかった。このお人にとっては逆巻く火炎も絶対零度の氷も恐るるに足らないようである。我はフランクフルトをかじったが、味がほとんどしなかった。
「緊急報告! 緊急報告!」
委員の一人が駆け込んできた。
「何だ?」
「正門前で不審者が暴れています! 教員が対応しているものの不審者は興奮状態で聞く耳持ちません!」
「わかった。司令官、ここは私にお任せください」
「程々にしておくのよ。あと、私は司令官じゃないと何度も言っているでしょう? もう引退しているのに」
須賀野殿は雪川先輩の苦言を黙殺して、首の骨と指の骨を鳴らした。風紀委員室から出ていく際に、
「林、中ノ瀬。二人を見張っていろ」
「「Yes, ma'am!!」」
忠実な配下に指示を下すことも忘れなかった。林殿と中ノ瀬殿は言葉通り、雪川先輩たちの傍らに後ろ手を組んで立った。
その絵面は、まるで部下にクーデターを起こされて監禁されている高級軍人のようである。
「はあ……華視屋さん、申し訳ないわね。巻き込んでしまって」
雪川先輩は両肘で頬杖をついた。
「半ば我のせいですから仕方ないのですぞ。ところで、雪川先輩は須賀野殿のことをどう思っておられるのですかな?」
思い切って聞いてみた。
「仕事は申し分ないわ。実際に学校の風紀もがらりと良くなったから。ただあの子は言葉で注意するより体に言い聞かせてしまうタイプだから、ちょっとやり過ぎと思うことはあるわね」
「だけどね、ああいう厳格な子ほど一度沼にハマったら抜け出せくなるのよ。静流みたいにね」
火蔵先輩がそう言って雪川先輩の頬をつっつく。雪川先輩は「もうっ」と嫌な顔をしながらも好きなようにさせているではないか。ああ、こっ、これはたまらんですぞ! カメラをっ!!
「「んっ、んっ!」」
林殿と中ノ瀬殿が同時にわざとらしくせきこんで、我を牽制したから手を引っ込めた。火蔵先輩もスキンシップをやめてしまった。
「つれないわねえ。まあいいわ、星花祭が終わったら風紀の力が及ばないところで静流と愛し合うから、ねえ?」
「……」
雪川先輩の顔が赤信号に変わる。「氷の女王」もこうなっては形無し。実際、火蔵先輩と交際を始めてから多少丸くなったところがある。その代わりもっとシビアでデンジャラスなのがやって来てしまったのだが……。
「あなたたちも混じる? 多人数でするともっと気持ちいいわよ」
火蔵先輩が林殿と中ノ瀬殿を挑発したが、二人は無表情でギロリと睨みつけるだけ。これでは火蔵先輩もやれやれ、お手上げのポーズをするしかなかった。
「それにしても須賀野さん大丈夫かしらね、今回もやり過ぎなければいいのだけれど……」
雪川先輩は遠い方を見ていた。
ゲストキャラ
雪川静流(百合宮伯爵様考案)
火蔵宮子(楠富つかさ様考案)
登場作品『氷の女王に、お熱いくちづけを』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893759385
昨年度の星花祭については第45話以降をご覧ください。




