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chapter5「運命の分かれ道」

 一美を覆い、守るように抱きかかえた響夜だったが、彼の体が貫かれる事はなかった。

 それに気づいたとき、響夜の体には生暖かい血が降り注いでいたのだ。


 爪で体を貫かれたのは響夜でなく、アイリス。


「うっ……ぐっ……!!うあぁッ!!」


 アイリスは仕返しに魔人の腹部を切りつけると、魔物と距離をとった。

 防ぐために腕を盾にし、さらには腹を貫かれたアイリスは大量の出血をしていた。


 満身創痍である。


「お、おい……。」

「その子はただ気を失っているだけだ……。言っただろう、狙いは……君だと!!」


 腹部からだけけはない、口からも大量に吐血している。

 最早、戦える状態ではない。


「いいか?もうここまで来たら、私が魔法を使って奴を道連れにする他ない。そしたら君は、妹を連れて……逃げるんだ。」


 アイリスは痛みと眩暈に耐えながらも淡々と説明する。


「もし『罪の意識に押しつぶされそうだ』と言うなら……これを持っていってくれ―――持ち主を……探してくれ……お願い。」


 首に下げていたリングを響夜に手渡したアイリスは立ち上がり持っていた剣を放った。


「だめだ、オレも残って戦うよ……。」


「バカな事を言うな!!奴が弱っている今がチャンスなんだ、できるだけ遠くへ、逃げろ!!」


 アイリスは差し伸べられた響夜の手を振り払った。

 それと同時に、魔物が雄たけびを上げて迫ってきたのだ、弱っているがその分機嫌を悪くした様である。

 響夜でも魔人の魔力が増大しているのが分かる―――空気が揺れて、空気以外の何かが空間を支配している様な感覚に陥る。


 響夜はおとなしくアイリスに言葉に従い、一美を抱え、走り出した。




「〝行け〟……!!」


「―――……!!」




 その言葉を聞いた時、響夜の脳裏にあの日の悲劇が蘇った。


 あの時、その言葉を放った父と母は、二度と帰る事は無かった。

 逃げた先にあったのは、後悔と悲しみだけ。


 まだ幼かった一美は生みの親である2人の顔さえまともに覚えることはできないまま―――


 だが……「それだけか?」と、自身にそう問いかける。


 響夜の脳裏に疑問が浮かぶ。あの日〝魔族〟が奪っていった物はそれだけではない。

 あの日から人と関わる事を避けてきた響夜にとって、魔族の存在は呪いその物だった。

 

 もし、ここでまた逃げてしまえば、生き延びる事が出来るかもしれない―――


だが、ここで逃げたなら。この先もこの呪いとも呼べるその〝何か〟から一生、逃げ続ける事になるだろう。


 友を避け。


 幼馴染を遠ざけ。


 家族との記憶にも蓋をした。


 響夜の悲しみと後悔は、腹の底から、怒りとなって湧き上がっていた―――

 ―――足はすでに止まっている。


そして、弱り切ったあの少女が、魔人に制されるのは必然であった。


「ぐっ……うぅっ……!!」


 魔力による身体強化が無ければ、鷲掴みにされた頭部は今頃、豆腐の様に握り潰されてあたりに飛び散っていた事だろう。


 それでもメキメキ、と音を立てながら死はすぐそこまで近づいていた。


「―――その前に……貴様、だ、けでも道連れに……!!」


「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーー!!」


(やられる……!!)


 魔物がその鋭利な爪をアイリスの眉間めがけて突き刺そうとしたが―――

―――そうはならなかった。


「―――うぅうううう、ぉおおおおおおおおおお!!」


 アイリスが投げ捨てた剣を両手に握り、ふいうちで斬りかかった響夜が魔人の右腕を切り落としたのだ。

 魔人の左腕は空を切り、右腕が切り落とされた事で、解放されたアイリスが地面に崩れた。


 響夜が地面に横たわったアイリスを抱えて起こす。


「大丈夫か!?」

「なぜ、逃げ、なかった!?妹は……どうした!?」

「安全なところに隠してきた……どうせ狙いは俺なんだ、あいつらとも初対面ということでもないし。」

「……なんだって?」

「君は下がってて、ここはオレが―――危ない!!」


 響夜は、アイリスをやや乱暴に突き飛ばした。

 上半身だけを起こしたアイリスは、大木に身を預ける。


「魔族の事を知っている人間が、一般人に?あの少年はいったい?」


 ただの人間が魔物に襲われて逃げ延びたケースはほとんどない。

 この少年は〝魔物と一度遭遇し、生き延びている人間〟ということになる。


 そして、アイリスがもつ剣は魔力を持つ人間が振るうことで、初めて「退魔の剣」としての機能を発揮するのだが―――

―――この少年はいとも容易く、魔人の腕を切り落として見せていたのだ。


「彼は……よくよく見れば僅かとは言え、魔力を操っている!?なぜ今まで気づかなかったんだ私は!!」


響夜は、魔物との間合いを図りながら剣を振るう。


「ハァア!!」


片手だけになったとは言え、魔人のパワーは凄まじく、人間の力の比ではなかった―――


―――しかし。


「彼が押している!?」


 響夜は、魔物の腕の攻撃を受け流して、確実に魔物を追い詰めて行く。

 手負いの魔物は素人でも凌げるほどに弱っているのだろう。


「アァアアアアアアー!!」


 魔人が、口から蒸気なようなものを出している。かなり興奮している様だ。

 だが、響夜には獣的なその動きを、確実に、一撃一撃を防ぎながら隙を窺っていた。


―――「角を狙え」―――


「―――!!」


突然〝いつもの夢〟に見る青年のような声が響夜に語りかけた。


「アァアアアアアアアアアー!!!!!!!!!!!」

「角を……狙えばいいんだろ!!」


 魔人が響夜に飛び掛かるその瞬間。

 背後にある木を蹴って、響夜は魔人の真上を飛び越えた瞬間に、魔人の角を捉えた。

 背中いっぱいまで振りかぶった剣が力強く振り下ろされる!!


「ハァッッ!!」


2本あるうちの1本の角が見事切りされ、宙を舞い、地面に突き刺さった。


「グッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 魔物が角を失いのたうち回る。


「ぐぁっ!!」


 空中で姿勢を崩した響夜も地面にたたきつけられ、すぐに体制を直して魔人に斬りかかる。

 魔人は虫の息、こちらを見つめたまま微動だにしない


 チャンスは今しかない!!そう確信した。


「よし、今だ!!とどめ!!」

「やめろ!!罠だぁ!!」


 響夜は魔物に接近し、切り落とした右腕の方から斬りかかったが、剣が魔人を切り裂くことはなかった。

 先程切り落とした右腕はとてつもない勢いで再生して、響夜の剣をあっけなく防いでしまったのだ。


「なっ……!!」




 響夜の顔が青冷める。次には背筋が凍る様な感覚に襲われる。―――




―――響夜は鋭利な爪に体を貫かれた。

次回更新まで、少し間を置きます。


お楽しみに!!

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セブンス・コードⅠ —Another world phenomenon-
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