chapter4 「遭遇」
あれからどれだけ時が経ったのかは分からないが―――
「ここは……どこだ?」
―――倒れていた響夜が気づいた時、辺りは闇に包まれていた。
あれ程賑わっていたショッピングモールの景色はとうに消え失せて、目に飛び込んできたのは空まで届くかのような木々だ。
大腸の光すら届かないせいか、春なのにも関わらず冬のような寒さすら覚える程であり、白くなる息が森を包む霧と交じり消えていく。
「―――伏せろ!!」
どこからか女性の声が聞こえた。
「うぁ!!??」
叫び声を聞いた響夜が慌てて伏せると、背後にあった小さめのマンション程の大きさはあるでろう大木が切り倒されていた。
「無事だな?」
気が付くと〝白髪の少女〟がいつの間にか響夜の前に立っている。
「ここはいったいどこなんだよ!!この感じは……〝また奴ら〟が!?」
「……考えるのは後だ―――私が、あの魔族を倒すまでそこでじっとしておいて貰おう……私も君に聞きたい事が山ほどある。」
「ま、魔族!?」
森は怪しげな霧に包まれている―――
―――2人の目の前には、身長が2mはあるであろう〝異形の生物〟が霧の中から現れていた。
生気を感じさせない灰色の肌。
刀のように弧を描き、細く、長く、鋭い爪。
体のあちこちに棘が生えており、顔は口以外の個所が外皮のようなもので覆い隠されていた。
頭部には2本の角が生えている。
一応は〝人に近い形〟を取っている―――
―――魔人だ。
「アァアアアアアアアアアアアアア―――!!」
森に響く雄たけびは黒板を爪で引っ掻く様でもあり、錆びついた歯車どうしが悲鳴を上げるようでもあった。
鈍く、そして鋭い叫びである。
「うわぁ!!??」
一体何処から取り出したのか、突撃してくる魔人を少女が左手で握った〝白銀の剣〟を振るって、響夜の眼前へと迫った攻撃を難なく防ぐ。
「ホーリー!!」
白い光が放たれると魔人は吹き飛ばされ、霧の中へと姿を消した。
「いいか!?あの魔人は君を狙って現れた、だから君がここから動かなければ上手く対処できる筈だ。幸い知性も爬虫類以下だから対処はしやすい―――必ず私が守って見せるからそこを動かないで貰おう……いいな?」
「わ、わかった」
響夜はパニックを起こしかけながらも、なんとか気持ちを落ち着けるた。
少女は響夜を囮に、響夜は少女を盾にする事で魔人に対処する事になった。
二人の元へ魔法や刀のような爪が次々と飛んで来る。
少女はそれを防ぎながら、強大な魔法を放つ準備を整えていた。
しかし、霧が徐々に濃くなり始めていたために、少しずつだが後退もしている。
確実に追い詰められていた。
「いいぞ、魔力も良い具合に高まって来ている……魔物の場所も割り出せて来ている、あと少しだ!!」
「でもそろそろ限界だ……後ろにすごく大きな木があるんだ、このままだと追い込まれるぞ!!」
後退しながらも着実に魔物を追い詰めているが―――同時に、逃げ込める範囲を狭めていた。
「こ、これは!?」
その時だった。
響夜の足が何かを踏みつけてバランスを崩してしまったのだ、踏みつけたのは妹である一美が所持している筈の「かばん」である。
「……!!……ッ!!」
響夜は目線をあちこちに這わせると、近くで地面に横たわっていた一美を発見した。
今まで何とか維持できていた平静を欠いてしまい、一気にパニックを起こす。
「一美!!」
「……!?やめろ!!」
響夜は反射的に横たわっていた一美に駆け寄った。
だが、それは同時にアイリスから離れてしまう事でもあり、その身を危険に晒す事を意味していた。
「一美!!起きろ!!ケガはないか!?おい!!」
「アァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
このチャンスを待っていたかの様に〝狩人〟は霧の中から姿を現し、響夜に牙をむいた。
「―――ッ……しまった!!」
(この距離ではあの二人諸共、魔法の的に……!!)
そう判断した少女は2人を守るためにある決断を迫られた。
「くっ……間に合ってくれ!!」