chaptear2 「迷走の魔術師」
引越しして、故郷を久しぶりに見たりするとこんな感覚になりますよね……。
「確かに、そう簡単に見つかる筈もないだろう……とは思っていた。」
アイリスは、彩王子駅の街並みを見ながら肩を落としていた。
何故ならば、昔住んでいた街とは言え……かなり景色が変わっていたからである。
便利になった物だと関心はするのだが……昔と違って見た事もない店がいくつも並んでいた。
小さい頃に家族と寄り道をした駄菓子屋や、くたびれたゲームセンターも失くなっていた。
街は新たに出来ていた高層ビルやマンションが立ち並び、目印になる建物は何1つ見当たらなかった、従って―――
「私とした事が……、完全に迷ってしまった。」
―――のである。
日本に移住する時〝会長〟から色々と渡された物の、アイリスはそれを一つも役立てる事はできないまま、とうとうこの有り様で「とくにこの『すまほ』とやらはいったい何なのか?」と先日、自宅で4、5時間ほど格闘した末、遂に―――
「電源のつけ方が分からない……。」
―――とうとう使いこなす事はできなかった、そもそも使いこなせていたらこの様な事にはなっていないのである。
「会長から『困ったらこの、すまほの中にある〝なすび〟というのを使いたまえ』と言われたがこんな小さな箱のどこにそんなものが入っていると言うんだ……!!帰ったら会長を突き詰めよう。」
アイリスのミッションタスクは〝本来〟のモノから大いに外れ「駅に戻る道を探す」というものに完全に切り替わっていた―――
―――が、本来の目的ももちろん忘れていない。
「結界にはまだ大きな反応は無かった―――この国は魔術を意図的に用いた建築物が比較的少ない土地の筈だ……にも関わらず『学校』の中にいる時だけ結解を展開する事ができなかったのは何故だ?……ここは人が多いが、私の結解ならその様な人間はすぐに発見できる……。」
この世界の物には多かれ少なかれ〝魔力〟が宿っている、アイリスの使用している結界は魔力を探知する物だ。
草木や水、道端の石ころ、生き物はもちろん、人間にだって魔力は宿っている。
歴史的な遺物や建物は、人間や生き物が長い時間をかけて魔力を無意識かつ僅かにそれに向かって放出するため、神聖な力も宿りやすくなり魔力が自然に生成されていたりする事も多い。
日本なら「神社」や「寺」等がそれにあたるが、もしその様な場所に近づけば即刻、結界は崩壊してしまうし展開もできなくなる。
しかし、あの学校はただの公立高校だ。
地下にいわくつきの金貨や遺跡でも埋まっていなければ、築10年かそこらの学校にそんな力がある筈はない。
今のアイリスの目には魔力が視認できている、彼女の目的は〝魔力がひと際強く、濃く、それ故にある物を引き寄せてしまう様な人間〟を探す事だ。
「人探しをするためとは言え、山吹さん……だったか、悪い事をしたな。学校では自然に振舞っていたつもりだが……ふむ……カラオケボックスで抜けてきたのは少し不自然だったか?こんな事になるなら一緒に行動をとるほうが効率、良かったかもしれない……。」
アイリスは駅までの道のりを、ゆっくりだが戻る事にした。
あまりに代り映えした故郷の姿に、少しだけ寂しくなる気持ちを感じながら。





