Chapter1「過去と現在と未来」(挿絵アリ!!)
微睡みの中に見る景色はいつもと同じ―――
―――彼の人生の全てを狂わせた、〝あの日〟から、同じ夢を繰り返し見るようになった。
その青年が放つ言葉が、姿が、最近は少しづつ聞こえるように、見えるようになった気がする。
だが〝彼〟から聞ける話はいつも同じだ。
「鍵が来る―――我ら―――が導くままに―――」
この言葉が頭から離れない。
セブンス・コードⅠ
—Another world phenomenon-
日本 東京都 彩町
2020年 4月1日 (水) 14:12
「響夜~起きろよ、もう午後2時回ってるぞ~。」
お構いなし、と東太一は気持ちよく眠りこけていた響夜の頭を掴みぐしゃぐしゃと揺さぶる。
「中学の時もお前遅刻だったよな~……まぁあの時も奏ちゃんは一緒だったけど~……さっ」
本当なら学校には間に合い、普通に教室に辿り着くはずだった。
「―――ッ……バイク置き場が校舎の反対だったんだよ。」
「そのくらいリサーチしとけよ、おまえバイクで来る気満々だったんだしぃ~。」
実を言うと、響夜はこの事実を知っていたのだが、遅刻する理由がどうしても欲しかったのだ。
ふと校庭を見下ろすと、生徒のほとんどは帰り始めているようで、教室には生徒は一人も居なくなっていた。
「そういえば今日、買い物があるんだったわ……そろそろ帰らないと。」
響夜が身支度を始めると、このタイミングを見計らったかのように太一はある話を切り出した。
「そいえば今日、お前が生活指導から説教食らってここに来るまでの間、クラスでは自己紹介があった訳だが……。」
出席番号順に呼ばれ、席を立ち自己紹介をする。
しかし、登校時に使用する車両は事前に登録が必要であり、教師から厳しく指導を受けていた響夜は指導を受けている間に自己紹介をするタイミングを失っていた。
響夜は初日からクラスで浮いた人間となった。
———だが響夜にとっては〝その方が何かと都合がいい〟。
「自己紹介は苦手だったから都合がいいけど……身の上とか聞かれたら色々面倒くさいしな。」
だだ、クラスに入った時もそうだが席に着いた時の「あいつ誰?」といった異物を見るような感触は何回経験してもなれない物である。
「お前の事なんて周りはたいして興味ねぇから安心しろ―――中学時代のマドンナでもある折本さんとのクラスは別れちまったしな……このクラスにももんっっっっっっっっの凄いキレイな女の子だいるんだぜ?どこぞの貴族って感じでよ~人を寄せ付けない感じで、えっと……名前は何だっけ?」
「俺とした事が女の子の名前を覚えられなかったなんて!!」と悶絶している太一を余所にして、響夜はなんとなくだがその少女の事を思い返してみる―――。
その少女はえらくこのクラスに対して〝自然に溶け込んでいる〟様な感じだった。
例えば、花が花壇に植えてある様に、太陽があれば月がある様に、山があれば木がある様に、と―――
―――だが、それは当たり前の事である。
〝白髪〟の人間を響夜は初めて見た。それでも驚くほどクラスに馴染んていたのを覚えている。
やはり高校生ともなれば多少の事に気を遣うというのは周りも覚え始めるのだろうか。しかし毛色の違う人間が視界に入ってしまえば多少なり視線を注いでしまうのが、ある意味では好奇心ある人間の正常な反応である筈だ。
響夜にとってはその〝あたりまえ〟の様な少女の在り様が〝かえって不自然〟に映った。
とは言え「まぁ生徒だからいるのは当然と言えばそう」なのだが。
「あぁ居たなそんな子……そういや山吹が帰り際に拉致ってたっけかな?……気の毒に。」
拉致った張本人である少女の本名は、山吹奏と言う。
昔から人当たりが良く、どんな相手にも等しく接しているため基本的に友達はすぐできるが―――逆に言えば深く付き合う人間も家族ぐらいの物だと響夜は知っていた。
ある意味で〝山吹なら心配無いだろう〟と高を括る
「して、お前がこの話をした理由は?」
「おまえのバイクを今日、俺に貸せ!!カッコよく女子の前に乗り付けたい。」
「イヤだ。自分のが用意してあるって言ってたろ―――てかお前、免許は?誕生日はまだ先だよな?」
「―――細かい事は気にしない!!」
「いや、細かくは無いだろ。免許制度舐めんな。」
「それに乗ってきてねぇんだよ!!こんな日に乗ってきてたのはお前ぐらいだっつぅの!!いいだろ!?今ならまだ間に合うからさぁ~頼むよぉ~……。」
女子の話になると太一の小言は長い。
しかし「お前を縛り上げ、生徒指導の説教をまるまる聞かせてやろうか」と脅すと、太一は一目散に教室を後にした。
―――この町、彩町は、都心から少し離れた〝彩王子市〟の中にある。
人口は56万人程の少しだけ不便な町だ。
高校や大学が多く点在し、そのために地方から上京(?)してくる人たちもいるとか何とか。
ちょっとした商店街も、もちろんありはするが―――少し離れてしまえば畑や田んぼも見れてしまう程の……田舎だ。
規模の大きい住宅街もいくつかあり、大きなゲームセンターやショッピングモールは大きな駅にでも行けば、ちゃんとある……ちゃんとあるのだ。
冬が過ぎ、春の風が町を包むころ―――。
―――この男、狭間 響夜は高校1年生になった。