表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/179

chapter46「2つ」


 満ツ穂は、おじいちゃんが大好きだ。


 「―――おじいちゃん!!」


 幼い頃、兵庫県に住んでいた〝おじいちゃん〟に会うのが何よりの楽しみであり、満ツ穂にとって唯一〝生〟に執着する理由だった。

 満ツ穂は勉強が得意であったかと言えば違く、スポーツが得意でも無い。


 だた1つ〝おじいちゃんが大好き〟と言える科目があるのなら絶対に負けない自信があった、誰よりもだ。

 

 あと、おばあちゃんも好きだ。

 でも、大好きなおじいちゃんの結婚相手なので、少しだけ「ずるい」と感じていた。


 「お~~~~満ツ穂ぉ、大きくなったなぁ……!!」

 「私ねー、また身長伸びた!!並ぶとき、前から5番目なんだよぉ?」

 

 1年に1度……建前上ではあるが、父方の実家を訪ねる。

 おじいちゃんは学校の先生だったので小学生の満ツ穂を大変可愛がった。


 満ツ穂が伸びた身長の事を伝えるのも毎年の事であるが―――


 「えー。」

 「えーってなに!?」


 ―――おじいちゃんも必ずそう返した。

 口を「へ」の文字に曲げて、少し苦そうな顔をする。

 

 しかし、これは2年前に知ったのだが―――どうやら、満ツ穂の身長が伸びてしまうと〝背の順〟で後ろの方へ流れて行くので「学校行事の写真撮影では見え辛くなってしまう」と悲しんでしまうのだ。

 そう年賀状に書かれていた、おばあちゃんがこっそり伝えてくれたのだ。


 「はぁ……満ツ穂。」

 「こんばんは、お義父さん―――はぁ。」


 反対に、満ツ穂は両親があまり好きでは無かった。

 かと言って「嫌いか」と言われると難しい。


 だがこれにも、1つだけ言える事がある。

 満ツ穂は〝両親が向けるおじいちゃんへの視線〟が嫌いだった……誰よりも嫌いだった。

 

 だが、それでも、満ツ穂はおじいちゃんが大好きなのだ。

 

 おじいちゃんは、元々小学校の先生だ。

 本を読み始めると相手をしてくれなくなるので満ツ穂はいつも構ってほしいと思い、たくさんの質問をする。


 おじいちゃんは、メガネを少しずらして満ツ穂を膝に置くと話をしてくれる。

 毎回「仕方が無いな」と言いつつも、喜んでいるのを知っていたので、満ツ穂は〝にしし〟と歯茎をむき出して笑う。

 

 「そうだな、うーん…………昔々、あるところに―――」

 

 それは、物語であったり。

 

 「―――星の光っちゅうんは、すごく昔の光でな?」


 宇宙の話をしたり。


 「知り合いが魔法使いの村に住んどってな……!?」


 ……時々、お道化ながら嘘の話もしたが、おじいちゃんは楽しそうに話した。

 満ツ穂がむっとした表情で振り返ると、もっと笑った。

 

 きっと、おじいちゃんの長い人生の中で起こった〝嬉しい〟や〝悲しい〟の数に比べれば、短い間の出来事でだっただろう。

  

 だが、そんなおじいちゃんが〝1度だけ悲しそうに話した〟事がある。

 満ツ穂が、小学6年生の時である。


 「おじいちゃん?」

 「ん?」

 「おじいちゃんの子供の頃ってどんな?」

 

 満ツ穂からすれば、ほんの、ちょっとした、些細な……そんな疑問であっただろう。

 おじいちゃんは庭先にある池で、猫が恋を狙っているのに気づいていたが何もしなかった。


 「……聞きたいんか?」

 「うん!!」


 

 

 ―――最後に会った時、おじいちゃんは……「戦いの話」をした。


 

 訛っていた、おじいちゃんは満ツ穂にもわかりやすい様に話してくれた。

 

 

 いつもの様に、背中におじいちゃんの体温を感じながら……いつもの様に笑いかけてくれる瞳を見るために見上げたりしながら、満ツ穂は多くの事を聞いた筈なのに不思議な事で、これがあまり覚えていない。

 

 それは「大きな音がすると分かったら、耳と目を塞がなくてはならない」とか「焼けた木と、崩れた瓦礫の匂い」……とか言う物だった気がする。

 

 おじいちゃんは、続けて話した。

 

 「人は何かを守るために何かを壊していると言っても良い。食べ物を得るために土地を奪い……守る人達は奪われない様に脅威を破壊しようとする―――すると〝恨みや憎しみ〟が生まれて破壊は繰り返されて行く……。」

 「でも、殴られたのに黙ってたままじゃ―――。」


 満ツ穂も良く知っている。

 クラスの男の子が喧嘩をすると、まるで台本でも読み込んできたのかと言う具合に「あっちが先に殴った」だの「~君が物を取った」だのと言い始める。


 「そう、そこなんだよ―――だけど、それが続いた先で最後には〝命を破壊し合う〟のが人間―――燃えるだけだった〝火〟が〝火薬〟になって〝爆弾〟になる……最後には〝とても大きな火〟になった。いいか満ツ穂、命はいつか尽きるが、卑しい事に急速な命の破壊は世界を進ませる―――だから人の中には『傷つけあってもいいじゃない、それで進歩するなら』と考える者も少なからず居る。そして……もしそんな人間が〝心の闇〟に火をつけてしまったなら……誰にも止められない。」


 ―――ある意味、歴史が物語っている。

 

 「じゃあどうするので?」

 「〝破壊〟の先を見据える事……そして、破壊を破壊だけで終わらせない事―――」

 「……〝?〟……難しくてわかんないよ。」

 「かかかっ、そうかそうか―――じゃあこうしよう。」

 

 膝の上にある満ツ穂の体を探ると、おじいちゃんは両手を見つけた。


 「……満ツ穂がもし、その〝悪い流れ〟に捕まってしまったら……生きていくのに〝2つの大事な物〟を持つんだ―――〝1つは目に見える物〟……家族とか、夢とか、何でもいい。」

 「う~ん……難しい。」

 「そうだな。でも、いつかは満ツ穂より先に死んでしまったり、居なくなってしまう。それは〝形が変わって行く物〟だから……無くなったら、穴を埋める代わりの物を探さなきゃいけない。」

 「……。」

 「そして……もう1つは〝目に見えない物〟……。」

 「2つじゃなきゃダメなので……?」

 「人間の手は2つしかないからなぁ。たくさんの事を持ちすぎてしまうと、零してしまうんだよ。」

 「……じゃぁ何を持てばいいので?」

 

 長い長い旅の様な話の中で、とても1人の子供には受け止めきれない程の情報と悲しみの奔流に抱かれた満ツ穂は、それらをいくつも取り零したが―――最後におじいちゃんが放った一言が……満ツ穂の心に焼き付いている。

 

 「わ~から~ん。」

 「―――は、ええええ!?」

 「いつか満ツ穂にも分かる!!」

 

 おじいちゃんはと言って、勝手に話を終わらせると「メシやメシ」などと言った。

 



 ―――その年、おばあちゃんが亡くなった。


 

 

 おじいちゃんの目に見える1つは……おじいちゃんの目に見えない1つは何だったのか。

 あの葬式の時、おじいちゃんは泣かなかった。


 おばあちゃんの知り合いや親戚が多く集まり……食事をしている中、おじいちゃんは1人でタバコを吸っていた。

 満ツ穂は今までタバコを吸うおじいちゃんの姿を1度も見た事は無い。


 雨が降っていたが、火葬場の駐車場でスーツを着たおじいちゃんが空を見上げながらタバコを吸っていた姿が今でも忘れられない。

 

 突然、嵐の様に吹き飛ばされ落とされた、異世界・マナメイシア。

 多くの犠牲を出す戦いの中……ある夜、満ツ穂は思う。

 

 おじいちゃんにとっての〝2つの大事な物〟は、おばあちゃんだったのではないか。

 時に、人はその〝2つ〟を1つの何かに重ねてしまうのだろう。


 おじいちゃんは、大事な2つをいっぺんに失ったんだ、と。

 

 ―――そこから、おじいちゃんとは2年ほど会っていない。 


 両親が「おじいちゃんと暮らす」事を拒否したからだ。

 父は「父さん(おじいちゃん)といると、満ツ穂に余計な事を話す」だとか言ったのでたくさん喧嘩をした。


 おじいちゃんは大学を出ていない、それどころか高校も卒業出来ていない。

 まだ若く勉学に身を投じる事も出来た筈が、隣家から燃え移った火が原因で家が消失しまった事が原因ですぐにでも働かなくてはならない状態だった。


 目まぐるしく流れる時の中で、おじいちゃんはいろんな物を築いては失った。

 それでも、父を立派に育て上げたのである。

 

 だが……そんな父にとって、おじいちゃんは「大事な物」の中に入っていなかったのだろう。


 気に入らなかった。

 満ツ穂は「もしも、おじいちゃんの言う〝悪い流れ〟に捕まっても大事な物にはこいつらを入れてやるか」と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セブンス・コードⅠ —Another world phenomenon-
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ