花と欲と
その日から、当然のようにアラタとは連絡が取れなくなった。きっとこのまま自然消滅になるか、どこかで別れ話になるのだろう。
久しぶりに増えた独りの時間、ガイアはその事を考えるしか、やれることがなかった。なにより、どうしても他の男にハルトを重ねてしまう自分自身への強い嫌悪感が、ガイアをひどく蝕んだ。
今までの恋愛でも、誰と付き合っても、性格だったり外見だったり雰囲気だったり、どこかハルトと似ているところを探してしまっていた。それはハルトと親友で居続けるためだった。
本当はハルトと恋人同士になりたい。ずっと一緒にいて、手を繋いでキスをして、お互いの気持ちを確かめ合って、永遠の愛を誓って……。けれど、それを伝えてハルトと友達でいられなくなるのは、この気持ちを封じ込めるよりもずっとずっと、想像を絶する喪失だ。ひょっとしたら応えてくれるかもしれないなんて、淡い期待に賭けることは絶対にできなかった。
他に恋人を作っていると、そのハルトへの執着がやわらいだ。ハルトに会っても、平気で友達でいることができた。そうやって、高嶺より手近で欲を満たしては、それを見透かされて振られて、を、繰り返してきていたのだ。
ただ、夢と現実が錯誤するほどに似ている人とは、付き合ってはいけなかった。
──それでも、アラタはアラタだ。ハルトじゃない。顔や背格好は似ていても、中身は全然ちがう。ちゃんと、アラタのことが好きだ。好きなはずだ。ハルトへの想いも、これだけの年月が経てばもうきっと、焦がれるような恋心ではなくて、初恋が燻っているだけで……。
本心からの想いを巡らせているのか、こうありたい理想を言い聞かせてるのか……わからなくなりながら、ガイアは自問自答を堂々巡りに繰り返す。
携帯電話がメッセージの受信音を鳴らした。見ると、数ヶ月間、音沙汰のなかったアラタからのメールだ。
『しばらく連絡もせずにごめん。色々、考えた。やっぱり、ガイアのことが好きだ。一度会って話がしたい』
別れ話ではなさそうなことに安堵して、ガイアは返事を打ちこんだ。
『オレも色々考えた。チャンスをくれてありがとう』
一分と置かず、すぐに返信がくる。
『水曜休みだよな?仕事終わったらお前の家行くから、もし話を聞いてくれる気があるなら、真っ先にキスして』
『わかった、その通りにする。水曜日、待ってる』