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ハッピーエンド  作者: 冲田
前編
3/12

青年期

 昼間のカフェのアルバイトを終えて、ガイアは店の外に出た。もう夕方に差し掛かっているけれど、遅くなったお昼ごはんを食べるために、仕事場近くの公園のベンチに向かった。カフェのバイトの後は、まかないがわりのサンドイッチを、いつもここで食べている。この後は、居酒屋でバイトだ。


 特等席には先客がいた。遠目から制服姿の彼を見て、ガイアは「げ!」と一歩後ずさる。けれど、こっそり去ろうとしたところを、見つかってしまった。


「おーい! ガイア! ひっさしぶり!」


「……ハルト、高校は?」


「今日はテストだったから、午前中で終わった」


 ざまあみろと言わんばかりの笑顔を向けられて、ガイアは観念してハルトの隣に座った。


「バイト先、なんで知ってんの?」


「地元の友達に聞けば一発だったよ」


 それもそうか、と、ガイアはため息をついた。


「最近忙しいみたいだね」


「うん。この後も居酒屋バイト。だから、来てもらって悪いけど、そんなに時間ねえよ」


「そんなに頑張って、身体壊さない?」


「大丈夫。とっとと金貯めて、早く料理の専門学校行きたいし……」


「そっか。料理人になってレストラン開くのが、夢だもんな」


 ガイアは答えずに、サンドイッチの包みを開けると、ぱくりと頬張った。もうガイアに会話をする気がないということが、ハルトにもひしひしと伝わる。しばらく居心地の悪い沈黙が流れた。


 ハルトは落ち着かなげに両手をあわせて、指をくるくるとまわす。俯いてその自分の指を眺めながら、ぽつりと、沈黙を破った。


「僕、なんかしたかな……」


「……べつに?」


 ガイアはガイアで、斜め上の空を眺めながら答えた。


「じゃあ、なんで僕のこと避けてんの?」


「避けてるつもりねえよ。お互い忙しいし、高校生とフリーターで生活パターンも違うし、それだけだ」


「でも、それって、メール返さなかったり、電話に出なかったりする言い訳にはならない」


「なんだよそれ。お前、オレの彼女なわけ? そんなもんだろ、男友達なんてさ。そんなに頻繁に連絡とるもんじゃなくね?」


「いやいや、男友達だって、普通こんなに無視しないから!」


「恋人だったら最優先してあげるけど?」


「そうやって、のらりくらり! 本当はなんなんだよ! 僕がなにかしたなら教えてくれないとわからないし、僕はただ……」


 ハルトの言葉は喉につっかえた。それにつられてうっかりハルトの方を見てしまうと、彼は目に涙をうかべて、その目を真っ直ぐにガイアに向けている。


「僕はただ、前みたいな親友でいたいだけなんだ」


ガイアは、慌てて、もう一度顔を背けた。


「ごめん。ハルトは何もしてないけど、前みたいは、たぶん無理」


「だから、じゃあ、理由は⁉︎ 言えないの⁉︎」


「言った。一応、言ったよ、さっき。前みたいっぽく戻る方法は」


「はぁ?」


「……食べおわったし、俺もう行くわ」


 立ち上がったガイアの右腕を、ハルトはがしっと掴んだ。


「お前がどういうつもりで僕のこと避けてるのか知らないけど、言う気になってくれれば聞くし、原因が僕ならいくらでも謝るし……。とにかく、ずっと親友のつもりでいるからな!」


「よーく、よーく、覚えとくよ」


 ガイアはハルトの手を振り払うと、足早にその場を去った。ドキドキとしながら、左手は無意識にハルトに掴まれた箇所を触る。


 ──ずっと親友で、()()()()()()()()()()()()から、避けていたのに。


 今、自分は、普通にできていただろうか。今まで通りにハルトに接することができていただろうか。

 目をまっすぐ見られただけで、腕を掴まれただけで、冷静ではいられなくなってしまうようなこの感情を、ハルトに知られたくなかった。ハルトに彼女ができたときに自覚してしまった、彼への恋心を、劣情を。


 いつか、ハルトと親友でいたいと思える日がきたら、その時はまた会いたかった。本当の本音を言えば、今すぐに駆け戻って、ハルトを抱き締めたい。けれど、それをしてしまえば、きっと、親友に戻るチャンスすら失ってしまう。


 バイト先の居酒屋はとっくに通りすぎて、足は、独り暮らしをしているアパートへと向かう。

 嬉さと申し訳なさと悔しさと愛しさと罪悪感と痛みと後悔と、どうしてこんなことになってしまったんだろうと、色々な気持ちが一気に押し寄せた。どんなに我慢しても、一歩、一歩と足を動かすたびに、涙がこぼれ落ちた。

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