中学生
「なーんか、やっぱり、もう二度と小三の時とかみたいには、一緒に遊べないのなー」
そんなことをつぶやきながら、我が物顔でソファーに転がって、ガイアがゲームのコントローラーをピコピコと操作している。
「小三って……。そりゃあそうでしょ。中学生なんだから……」
お互いに部活のない水曜日、ガイアは決まってハルトの家に行ってゲームをした。こうでもしないと、この親友とは遊べない。ガイアは学区内の中学校、ハルトは中学受験をして私立中学校に行ったのだ。
小学生も高学年になると、ハルトは塾があってガイアと公園で一緒に遊ぶことはなくなった。勉強も追い込みになると、どこでだろうと遊んでなんかいられなかった。
受験が終わってようやく、これまで通りに一緒に遊べるかと思ったけれど、気づけばハルトは自分の知らない世界を作っていた。塾仲間と、同じ学校の友達と……。ガイアにも地元の友達は当然いるけれど、そこからハルトだけが抜けていってしまいそうで、こうやって押しかけて繋ぎ止めている。
「あ、そうだ、ガイア。来週の水曜は予定あるから、来るなよ」
「へぇ、なになに? まさか彼女でも連れ込むの?」
ハルトの驚いたような顔が耳まで真っ赤に染まったので、冗談で言ったつもりのガイアは彼よりもさらに目を見開いた。
「え……マジ?」
「いや、まだ、彼女じゃないんだけど……」
「彼女じゃないのに、親のいない部屋に連れ込むの⁉︎」
「誰も家で会うって言ってないだろ! でかけるから、来ても留守だって言いたかったの!」
「あー……。でもマジかぁ。うわー、先越されたぁ」
ガイアは大袈裟に、ソファからガックリとずり落ちてみせた。
「ガイアは僕と違ってモテるんだから、その気になればいつでも彼女つくれるでしょうが」
「まあ、自慢じゃないけど? 女子に告られたことは何度かあるよ? けどさぁ、オレだって誰でもいいから彼女が欲しいってわけじゃなくてさぁ。なんか誰もこう、ピンとこないんだよね」
「ほら。ピンと、とかなんとかワガママ言ってるだけで、いつでも彼女作れんじゃん」
ガイアは起き上がってソファに座りなおす。そして、うーん、と、クラスや部活の女子、告白をしてきた女子の顔をぼんやりと思い浮かべてみたり、誰かとデートをする自分を想像してみたりした。
「オレは、彼女とか今はいいや。お前と遊んでる方がデートとかするより絶対楽しいもん。
その子とうまくいっても、男の友情、蔑ろにすんなよ!」
「しないよ。僕だって、ガイアといるの楽しいもん」
口には出さなかったけれど、彼女ができたらどうせ遊ぶ頻度は減るんだろうなぁと、ガイアは思った。現に、同じ中学の男友達はだいたいそうだ。彼女ができたとたん、付き合いが悪くなる。
まだそうなったわけではないのに、近い未来にハルトも他の男友達のようになると思うと、ガイアはものすごくイライラした。