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ハッピーエンド  作者: 冲田
オマケ

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11/12

カットしたエピソード 「制服デート?」

中学生編と青年期編の間のお話になります。

ちょっと甘い感じ?

 中学を卒業して、ガイアの生活は大きく変わった。家を出ての一人暮らし、慣れない仕事、不規則な休み──。週に一度以上、必ず遊びに行っていたハルトの家にも、住む場所が徒歩圏内ではなくなったこともあって、なかなか行けなかった。


 そんな新生活がはじまって、あっという間にゴールデンウィーク。気がつけば一ヶ月ぶりにガイアはハルトの部屋を訪れていた。ガイアに大型連休はないけれど、ハルトが都合をつけやすかったのだ。


「高校生、いいなぁー」

 ハルトの部屋でごろんとくつろいでゲームをしながら、ガイアが言った。

「放課後みんなで一緒に帰ったりしてさ、制服のままゲーセンやらカラオケやら行ったり、ハンバーガー食べて帰ったりするんだろ?」


「それ、中学生の時とほぼ、変わらない気がするけど……」

 机に向かってだらだらと宿題をしていた手を止めて、ハルトは答えた。


「いや、変わる! ハルトは中高一貫だから変わんない気がしてるだけだよ! 地元の公立中なんて、小学七年生、八年生みたいなもんだったからな。んなこと、全然しなかったもん。塾行ってるやつら多かったし!」


「あー……なるほど……」


 ハルトは、何か考えるそぶりを見せたかと思うと、次には唐突に立ち上がってクローゼットを開けた。


「僕の中学生の時の制服、お前、着れるんじゃない?」

「どうせチビだけど……着てどうすんの? ていうか、バカにしてんの?」

「放課後の高校生気分、味わってみない?」


「はい?」


 ハルトは悪戯っぽくにやりと笑い、ガイアはごろんとしていた姿勢から起き上がりながら、眉をひそめた。


「次、夕方以降のバイトないの、いつ?」

「えっと……次の土曜日?」

「じゃ、僕の部活終わった後、一緒に帰ろうぜ! 裏門だったら人も先生もほとんど来ないから、コレ着て待っててよ」

「コスプレじゃん! 制服が着たいって話じゃないんだけど⁉︎」

「女子は良くやってるって聞くよ?」


 にやにやとしながら、ハルトはガイアに無理やりブレザーを羽織らせた。中学も高校も同じデザインのブレザーで、学年でネクタイの色が変わるらしい。


「うん、ちょうどよさそう!」

「うわー。事実だけど屈辱だわ……」


 ハルトの馬鹿みたいな思いつきだったけれど、ガイアも高校生の放課後に興味があるのは確かで、結局この誘いに乗ってしまった。




 土曜日、ハルトに指定された十六時に間に合うようにガイアは家をでた。さすがに家から制服を着ていって電車に乗る気にはなれなくて、駅のトイレで着替えた。駅から学校までの道は帰路につく学生がぽつぽつといたので、俯きながらそれに逆行するようにたどると、無事に校舎に着く。ハルトと合流してから着替えればよかったと後悔しながら、敷地周りに沿って指定された裏門へとこそこそと向かった。


 裏門ではすでに、ハルトが待っていた。ここで数分でも待たされなかったことに、ガイアはホッとした。


「おー! おつかれ! どっから見てもウチの生徒じゃん!」


 ハルトがガイアに駆け寄って言う。「中等部だけど」と最後にボソリと付け足したので、ガイアは彼の太ももあたりを踏むように蹴った。ハルトはバランスを崩してよろけながら、はははと笑った。


 ついさっき通ってきた駅までの道を、今度は連れ立って歩いた。よくよく考えてみれば、帰るためににわざわざ出掛けるというのは、おかしな話だ。


「どっか行きたいとこ、ある?」


「いや、この辺、初めて来たし……」


 ハルトの質問に、ガイアは少し緊張しながら答えた。ハルトとは飽きるほど遊びに行ってるはずなのに、隣にいるのが、どうにも落ち着かない。きっとコスプレみたいな真似をしているからだろう。生徒ではないことがバレて、怒られたり笑われたりしたらどうしようと、そういう考えが心臓の鼓動を大きくしている、ような気もする。

 気もそぞろに、前方を歩く制服の集団を無意識に道標にしていると「ガイア、こっち」と、ハルトがガイアの腕をひっぱった。


「うわっ!」


 突然腕を掴まれたことよりも、一層跳ねた心臓に戸惑って、ガイアはぱっと、ハルトの手を振りほどいた。きょとんとするハルトに、ガイアは慌てて言う。


「いや、静電気? バチってきて、びびっただけ!」


「え、静電気なんてきた?」


「そらもう、バチッと」


「僕は平気だったけど? ──ま、いいや。隣の駅まで歩くよ。途中に買い食いできるとこもあるし、ゲーセン行くならこっちのほうが穴場なんだ」


 ハルトはガイアの体の向きを行きたい方向に変えるために、もう一度、彼の腕を掴んでひっぱった。その手はすぐに放されたけれど、おかしな緊張感と早い鼓動はなかなかおさまらない。


 ──やっば。なにこれ。ハルト相手に、まるでこれじゃあ……


 ガイアはそう考えかけて、心のなかでぶんぶんと、かぶりを振った。




 ゲームセンターで遊んだり、その辺のキッチンカーで買い食いをしているうちに、ガイアは自分が制服を着てるなんてすっかり忘れて、いつも通りに楽しんでいた。

 夕食時になると、ハンバーガーのファストフード店に入った。食べざかりらしく、二人でも食べきれなさそうなほどにたくさん注文して、それぞれがトレーを二つずつ持ちながら、空いた席に座る。


「俺、食事っていったら、まかないか自炊ばっかだからさ。ハンバーガーすっげぇひさしぶりだわ!」


 心底嬉しそうに笑うガイアに、ハルトも自然に笑顔を向けた。


「こんなに喜んでくれんなら、放課後デートごっこ、誘って良かった!」


「へ?」


「ガイア、最近バイトも忙しそうだし、前会ったときも、なんか余裕なさそうだったからさ」


 ようやく慣れてきたとはいえ、仕事に行っては一人の家に帰って寝るだけの生活に、精神的にも疲れていたことは確かで、それを見透かされていたのはなんだか恥ずかしい。それに、ハルトは特に深い意味もなく発したであろうセリフが、なんだか妙にひっかかった。


「つまり、カノジョといつもこんな放課後デートしてるってわけ? はあぁああ。羨ましい限りだね!」


 自分の心の動きを隠すように大袈裟(おおげさ)にからかってみせると、ハルトはちょっと照れたように頬をかきつつ、目を逸らした。


「ふうぅうん。否定しないんだ。いいなぁ高校生。青春だねぇ」


「んな、突っかかるなよ」



 今日ハルトと過ごした時間は、ものすごく、楽しかった。そして今、店の中を見回せば、制服のグループやカップルがいくつもある。──コイツらみんな、生活の心配なんか一切せずに親のお金で遊んで、いつもこんなに楽しい思いをして……。

 ほんの一端だけど経験してしまうと、羨ましいより妬ましい。ふと、目の前がじわりと(にじ)んだ。


 住む世界が全然違う。こんなにキラキラとした時間を、カノジョやたくさんの友達に囲まれて。ハルトが自分なんかと付き合い続ける必要なんて、ないように思えた。そもそも小学生時代の友達なんて、思い出の中だけのものになっていって、たまには同窓会なんかで会ったりして、その程度の関係に落ち着くのが、自然だ。

 ──羨ましい、妬ましい。ハルトとこうして過ごせる高校生という時間が。彼の近くにいる人たちが。


「え? ガイア?」


「目に、ポテトの塩入った」


 苦しい誤魔化しは当然ハルトには通用しなかったし、ぽろぽろと落ちる涙はすぐには止まらなかった。


「……僕からみたらガイアは、同じ歳で独り立ちして、自分で稼いで自分で食って、ひと足もふた足も先に大人になられた気がして、正直焦る」

 ガイアの涙の理由の一端を見透かしたように、ハルトが言った。


 ガイアはこんなところでいつまでも泣いているのもカッコ悪くて、ハルトに渡されたハンドタオルで顔を(おお)いながら、呼吸と喉を整える。


「はあ? 世の中出たら、俺はただの中卒フリーターだぞ? お前はこのまま付属の名門大学行って勝ち組街道まっしぐらなんだから……」


「僕のこの甘えた環境って、小学十年生って気がする。結局、夢らしい夢も、まだないし。

 ──ガイアは本当、最高に格好いいよ」

 ふわりとした笑顔でハルトは言った。


「い……えっと……」


 珍しく褒められたからなのか、ガイアは急に襲ってきた恥ずかしさで、とっさに返す言葉が出なかった。顔が熱くて耳までジンジンと血液が巡っているのがわかるほどだ。きっと、他でもないハルトに格好いいと言われたのがうれしかったし、同時に変なこそばゆさを感じている。

 ガイアは、もう涙は出ていない顔をもう一度、タオルで(おお)った。


 薄々は勘づいていた。彼を独占していたい、自分だけと仲良くしていて欲しいという欲望。その誤魔化しきれない想いに絶望した。


 ──ああ、オレやっぱり、こいつのこと、()()なんだ。

本文の流れの中に入れてしまうと、ここだけ長くなってバランス悪くなりそうなので、カットしてしまったエピソードでした。やはり長くなりましたw

あと大地と新太の出会い編もあるので、こちらもノベプラのBLフェア中に書けそうだったら仕上げます。たぶんR17くらいで……?


お読みいただきまして、ありがとうございました!

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