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妹はヤンデレ好き

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 私は一冊の本を手に持ってため息をついた。

 あまり本を読まない私にとってはこの1冊を読むために、かなりの時間を費やしたのだ。

 疲れたので右手で目頭を抑える。


 私の部屋の外からドタドタと階段を上がる音が聞こえる。不思議なことに人によって階段を上がる音が違うのだ。

 どうやらこの音は妹が上がる音らしい。


「お姉ちゃん!本読み終わった?」

「読み終わったよ」


 読み終わったタイミングを見計らったかのように妹は私の部屋のドアを開けて入ってきた。

 妹は現在高校2年生、今日は土曜日なので妹は今部活が終わって帰ってきたようだ。

 ちなみに私は高校3年で受験生真っ只中である。


「それで!それで!どうだった?そのヤンデレ本!」


 妹に言われて私は手元にある本に目を落とす。

 本の表紙は鎖に繋がれた女性とその鎖を握る男性の姿が書かれている。

『愛の束縛』という本で、高校生の女の子が幼なじみの男の子に監視や自分に依存させる愛の重い話だった。

 いわゆる主人公がヤンデレに愛される話だ。


 妹は今ヤンデレブームらしく私にイチオシ本を紹介してくれたのだ。いや、ヤンデレ好きの信者に引き込もうとしたという方が正しいのか。



「ヤンデレだったっけ?現実に束縛しちゃう人はいるらしいけど、こんな漫画みたい策士なヤンデレはいないと思うし、こんなドロドロ嫌だな。」

「そこがいいんじゃなーい!お姉ちゃんわかってないなー!」


 妹は頬を膨らませ、漫画なら背景に『プリプリ』と擬音を入れたくなるような顔をする。

 そんな妹を呆れ顔で見ていると妹は私の手にあった本を取り、パラパラとめくり始めた。


「ここ!このクライマックスで主人こを誰にも見せたくないから鎖で繋いじゃうシーンとか最高でしょ!」


 にこやかな笑みを向けてくる。

 好きな本について語りたいという気持ちはわからなくもないが、分からないやつに何を言っても意味が無いのだと言ってあげたい。


「そこが一番意味がわからなかったよ。主人公が他の男に目を向けたらなぜ監禁になる。

 そんなことしたら嫌われるだろうに。なぜ分からないんだ?この男は。」


 ああ、“分からない”という発言で思い出した。そう言えば、今日の古典の授業分からないところがあったな。


 意識が古典の教科書の入ったバックに目がいく。

 するとカバンが私の手の先から消えた。

 見上げると妹がカバンを抱っこするかのように抱えている。

 まだ話すことがあるらしい。



「違うよー!ヤンデレはね!独占欲が強いんだって!それで相手を束縛したちゃうの!そこがいいの!」


 あの小説の男の行動は独占欲から来るという描写があった気がする。なるほど。だが…


「いや、他の男に目を向けて欲しくないのは独占欲でもなんでもないな、ただ主人公の心が自分から離れていかないか信用しきれなくて心配で仕方がないだけだな。それで目に見える鎖やらなんやらを用いるんだな。憶測だが。

 そもそも、鎖なんかで繋いでしまえば日光に浴びれず体が弱る。長生きできないな、この本の少女は。」


 なんだか手持ち無沙汰になり机に置いてあったスマホを手に取る。シンプルな黒色のカバーがしてある。ツイッ○ーでも見ようかとアプリを開くところでまたもや妹に取られた。

 右手に本、左手にスマホ、抱えているカバン。…なんか大変そうだな。


「んー!!そんな自己論語らないで!いいの!これは本だから!リアルじゃないから!」


「そうだな、リアルじゃないという意見には賛成だね。ヤンデレがいて監禁なんてやっていたら、行方不明者が後を絶たなさそうだな。

 まぁ、ヤンデレにストーカーを入れるならかなりいるかもしれないな。

 そもそもヤンデレなんて女が愛されたいという願望が生み出した化け物みたいなものだよ。

 イフルートだっけ?小説でメリバで終わったやつ。あんなのが現実にいたら、無理心中だらけだな、この世界は。」


「うわぁー…夢ないねお姉ちゃん。

 そんなんじゃ物語楽しめないよ?ドラ○もんの秘密道具のタケ○プターが理屈じゃ飛べないって子供に行ってるようなものだよ?もっと物語楽しもうよ!これ読んでヤンデレいいなって思わない?

 私はねーヤンデレに束縛されたいなー。束縛されるまでの愛が欲しいよー!」


「全くいいなと思わないよ。むしろ嫌いだ。というか、束縛だったら今もされてるじゃないか?好き嫌いするな、おやつは太るから食べるな、スマホは1日1時間までって感じに。ほら、家族から愛されてるぞ。」


「そうじゃないんだってばー!もういい!お姉ちゃんのバカ!もうオススメなんてしない!」


 妹は部屋をあからさまに怒ってるぞという雰囲気を醸し出しながら部屋を出ていった。


 あ!妹よ!カバンとスマホを返してくれ!抱えたままでていくな!おい!


 妹が隣の部屋にはいるドアの音がする。


「はぁ〜」


 精神的に疲労が溜まっているようで最近ため息が多い。


 ギシッと音を立てる椅子の背もたれに全身の力を預けているとまたもや階段を上がる音がする。

 今回は…


「入ってもいいかい?」


 義理の兄のようだ。

 どうせ聞いていたのだろう。

 妹には盗・聴・器・が付いているからな。



「どうぞ」


 そういうと義兄は私の部屋の戸を開けた。

 そこには王子スマイルのイケメン義兄が立っている。


 私の家には母の娘の私と妹と、父の連れ子の義兄と義弟がいる。再婚して今はひとつ屋根の下で仲良く暮らしている。

 はぁ〜なかよくねぇ…


 義兄が何か言う前に私は口を開く。


「妹には何も言ってませんよ。」

「知ってるよ。」


 そら知ってるだろうよ、聞いてたんだから盗聴してたんだから。

 だから私もこの義兄ヤンデレに聞・か・せ・る・た・め・に・に妹にきつい発言をしたのだから。


 ここで先程の妹に対しての発言でひとつ訂正しよう。

 もし独占欲や執着心、束縛心が異様に強い重い愛のことをヤンデレと称するならこの世にヤンデレはいる。

 そして今私の目の前に。


「それで、私に言うことでも?」

「真由美義妹にヤンデレブームを作ったの君の仕業だよね?」


 あーすっごく嬉しそうだ。

 そうだろうよ、ヤンデレ義兄に愛されたいなんて言われちゃなー。


 義兄は妹に対してド級のヤンデレだ。


「そうですよー。計画失敗しちゃいましたけど。」


 私は手をお手上げのポーズを取る。


 そうだ、私の計画は失敗した。


 まぁ、その腹いせと言ってはなんだが、こいつの理性に小説みたいな行動はするなよという意味で厳しい言葉を妹につけてる盗聴器を通じて聞かせたのだ。


 だが…まさか妹がヤンデレにハマるなんて…。私的には『ヤンデレなんかに愛されたくない』と言わせたかったのだ。

 そして身近にいるヤンデレの存在を知って欲しかった。



 計画とは、この義兄対策だ。

 義兄は妹のことを好きなのだ。それもかなり重い方で。


 妹はかなりモテる。私は平凡顔だが、妹はそれは可愛い姫のような顔だ。母になのだろう。私は父似だ。

 その姫顔のせいで義兄に一目惚れされたのだ私の妹は。



 そして妹はかなりの鈍感だ。義兄は妹につく虫を払い除けているのに気づかない。

 私が義兄が妹を好きだとわかったのは義兄が妹に対して向ける目があまりにおかしいのと、虫男を脅しているところを見てしまったからだ。


 だから私は義兄のような愛仕方をするヤンデレという存在を妹に知ってもらい、義兄のやり方を嫌って欲しかったのだ。



 そのために妹が呼んでいる本のサイトでヤンデレ本を読みまくり『あなたへのオススメ』欄にはヤンデレ本しか出ないようにして読ませる。


 そこまでは良かったのだが…まさかヤンデレを好きになるなんて。


 もちろん義兄は私の計画を知った上で止めなかったのだが。わかっていたのだろうか、この結末を。


 義兄はニッコリ笑ってこちらを見た


「これで、思いっきり愛を囁けるよ。」

「それはよかったですね。それで?もしヤンデレ嫌いになってたらどうするつもりだったわけ?」


 嫌われたところを想像したのだろうか、一瞬真顔になった。だがすぐに極上の笑みを浮かべてくる。


 義兄はかなりのイケメンだ。普通の子ならドキドキという効果音があってもいいくらいに顔を赤らめるだろうが、この人の本性を知ってる私は背筋を凍らせるだけだ。


「そんなの、閉じ込めて、逃げられないようにして孕むまで犯し続けるつもりだったよ。」


 サラッと言ってのける。

 自分に向けられた視線でないのにゾワっとした。

 濁りきった瞳とは小説の表現だかとても上手い言い回しだなと実感する。


 私は未来の妹を少し憐れみ、私はベストを尽くしたと直ぐにその思考をぬぐい去る。

 これ以上何も出来無い。そして関わりたくない。


「それじゃぁ、もう行くよ。」


 そう言って私に背を向けてドアに手をかける。

 するとこちらを振り返る。


「今回は良かったけど、もし次邪魔するなら…ね?」


 死刑宣告のような言葉を残して部屋を出ていった。


 緊迫した雰囲気が解け私は一気に脱力感見舞われる。

 ヤンデレは愛した人以外はどうでもいいという考えの持ち主なため周りへの被害が尋常じゃないとどこかの小説で見た気がする。ほんとその通りだ。


 ヤンデレを考えていると義父を思い出す。あの人もヤンデレだ。母に対しての。

 なぜこんなことになったのか、私はゆっくりと息を吐きながらあの家族が来てから今日までのことを思い返した。


読んでくださってありがとうございます

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