55話:初日の出
みんなで年を越しその日は早く寝た。
もちろん天宮の寝る場所は別室である。年頃の男女が一緒に寝るとなんかしら起きるのだから。
それと早く寝た理由は初日の出を見るためであった。ただしそれはみんなでではない。樹と天宮の二人きりである。桐生家の家には屋上があり、そこからなら初日の出は綺麗に見えるのだ。
とうとう新年の朝を迎えた。
起きた樹がリビングに向かうと丁度先ほど起きたであろう天宮と出くわした。目はまだしょぼしょぼとしており眠たそうにしていた。
「おはよう真白」
「おはようございましゅ、樹くん……」
どうやらまだ半分は寝ているようであった。
「顔洗って来たらどうだ? その間にお茶を淹れておくよ」
「ありがとう、ございます……」
そう言って天宮は洗面所へと向かって行った。
その間に俺はお茶を淹れていた。少しすると天宮が戻ってきた。
「樹くんおはようございます。やっと目が覚めました」
「みたいだな。ほら」
樹は手に持ったお茶を天宮に手渡した。
「ありがとうございます。いただきます」
「おう」
二人は座ってお茶を飲み始めた。
外を見るとまだ薄暗く日の出までまだまだ時間はありそうだった。
少し早起きをしてしまったようだった。そう思っていたところ、天宮がそわそわしているように見えた。
「どうした真白?」
「いえ、その……寝起きのせいで髪がぼさぼさで……」
天宮はそう言うのだが、全くもってぼさぼさではない。むしろさらさらとしているようにも見える。
「いや、ぼさぼさではないだろ」
「そう、でしょうか? 少し髪の毛が絡まっている感じがします」
「なら俺が梳かそうか? 菜月のをやらされるせいで梳かすのは得意なんだ」
「そうですか? ならお願いします」
たまたま櫛を手に持っていた天宮はそれを樹へと手渡した。受け取った樹は天宮の隣に座ると天宮は樹に背を向けた。
「それではお願いします」
「まかせろ」
天宮の髪を手に取った樹は手櫛をする。手櫛をしても天宮の蜂蜜色の髪の毛はさらさらと流れていく。そこにシャンプーの香りが樹の鼻腔をくすぶる。
ほんの少し頬を染める樹だったが、樹に背を向ける天宮には見えていなかった。
それからも樹による手櫛が続く。そんな樹の手櫛に天宮は思わず声を零した。
「気持ちいです」
「そうか。なら良かったよ」
続いて櫛で梳かし天宮の髪の毛は先程よりもさらさらとしていた。
「樹くんありがとうございます」
「気にしないでくれ。っと、そろそろ時間になるな」
「あっ、そうでした! 早く初日の出を見に行きましょう!」
「ああ」
樹と天宮の二人は厚着をして屋上に移動した。
先程まで薄暗かった空はほんのりとオレンジ色のまだ見えぬ朝日によって明るくなり始めていた。
「そろそろだな」
「ですね」
そしてついに――少しだが朝日が見え始めた。
朝日を見ながら天宮が樹に告げた。
「今年も楽しくて幸せな年になると良いですね」
「だな。二人だけの新しい思い出を作っていこうか」
「はい♪」
こうして二人は初日の出を出迎えたのであった。
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