40話:一条と朝比奈の馴れ初め
一条と約束した休みの日。
「おはよう」
「おう、おはよう」
待ち合わせ場所に一条がおり、樹はそう声をかけた。
二人で出かけるのは何かとこれが初めてなのである。
「いや~、樹と出かけるなんて初めてだな」
「だよな~」
そんな会話をしながら二人は歩いてショピングモールへと向かう。ショッピングモールは以前天宮と会った場所である。歩いても行ける距離なため、樹たち学生にとっては何かと重宝している場所でもあるのだ。
ショピングモールに向かっている途中、一条はふと思った事を樹に再度真剣な面持ちで尋ねた。
「樹」
「ん? ……どうした?」
真剣な顔をする一条に樹は不思議にしていた。
「電車の中では聞けなかったけど、樹は天宮さんのどこを好きになったんだ?」
「それを聞いてどうするんだ?」
「気になってな。なんなら僕から話そうか?」
「いいのか?」
「平等じゃないからね」
そう言って一条は語り出す。
「僕が朝日奈に出会ったのは入学式のときだった」
一条はその時を思い出すように語りだした。
あれは一条が入学式に向かっていた時だった。
時間に余裕を持って家を出て電車に乗りこんだ一条。
その電車に同じ学校の制服を着た女の子を見つけた。
色からして同じ一年だと言うことが分かった。
(あの子同じ学校の子なのか……)
可愛らしいのだが、どこか緊張したような表情をしていた。今日が入学式なのでそのせいなのだろう。
電車が駅で停車し人が乗り込んできた。
その女の子とは距離が近かったのだが、人が乗り込んで来たせいで詰め寄られてしまった。
満員となりぎゅうぎゅう詰めとなってしまう。
電車が出発してから少し、女の子に密着していることに対して小声で謝罪をする。
「ごめん」
だが女の子からの返事はなく見ると、小刻みに震えていた。トイレが近いのかと思っていたのだが、その女の子が一条の服の裾を摘んで見上げていた。
「ッ!?」
一条は女の子が震えている理由に気が付いてしまった。決してトイレが近い訳では無い。震えている理由は──痴漢であった。
一条は女の子に小声で、任せて、と言って女の子の後ろにいる男性を睨んだ。
男性は周りをキョロキョロと見渡し不審な行動をしていた。手は下に伸びていた。
女の子が一条の袖を掴む力が強くなった。
次の駅まで待とうと思ってもいたのだが、女の子の目が泣きそうになっていたのを見て、一条は自然と手が動いていた。
「おいやめろ! 怖がっているだろうが痴漢野郎!」
中年男性の手を掴んでそう言った。電車内の人の視線が男へと集まる。
注目が集まっていることに、男は慌てて口を開き否定をする。
「ち、違う! 勘違いだ!」
「そうか? ならこの子が泣いている理由を話して貰えるか?」
「そ、それは……」
注目が女の子に集まり、一条の服を摘み涙を流した所を見た。そして、女の子が一条が手を掴んだ中年の男性を恐怖の目で見ていた事が決定的でもあった。
「そ、そいつの勘違いだ!」
なおも男は痴漢行為をした事に対して否定を示した。
男が一条の表情を見ると、その顔は怒気に染まっていた。一条はそんなことをする人間が許せない人であった。
一条は女の子に問う。
「誰がやったか教えてくれないか?」
その質問に、女の子はゆっくりと男を指差した。
「ち、違う! その女の勘違いだろう⁈」
「私はその男が女の子に手を出したのを見てました」
一人の女性が手を挙げそう言った。
男はもう言い逃れする事は出来なかった。
それから次の駅で停車し駅員さんに事情を説明し、見ていたと言う女性の証言から、男は警察へと連れていかれた。
そのあと、学校最寄りの駅で降りた一条と女の子は一緒に学校に行くことにした。
「あの、先程は助けていただきありがとうございます!」
深く頭を下げた女の子。
「気にしないでいいよ」
「いえ、それでもありがとうございます。私は朝日奈結花といいます。宜しければお名前を」
「一条司。よろしく朝日奈さん」
「はい!」
「まあ、それからクラスが同じことを知って仲良くなって今に至るって感じかな。結花とは出かけるようになって好きになっていったって感じかな。告白は向こうからだったし、僕も結花の事が好きだったからね」
そう一条は樹へと馴れ初めを語ったのであった。
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