16話:ショッピングモールの聖女様
菜月は先程ゲームセンターでの出来事を、楓と東に話していた。
「へぇ~、そんなことがあったの」
「偉いな菜月は。流石俺の娘だな」
「えへへ~」
頬を緩め変に笑う菜月。そんなだらしなく緩んだ頬を樹は両手で引っ張る。
菜月の頬はフニフニしていて気持ちいい。
「な、にゃをしゅる~」
「ただ引っ張ってみたかった。悪意はない」
そう言って手を離すと、菜月は頬を抑えて樹を睨んだ。
「バカッ!」
「ふぐぅっ」
菜月の右ストレートが樹の腹に直撃する。しかもみぞおちに直撃したのは最悪だった。自業自得と言えばそれまでだ。
「お兄ちゃんが悪いんだからね!」
「す、すまん……」
腹を抑えながら菜月に謝る。
そこに楓がポケットから二枚の券を取り出した。
「なにこれ?」
「なんかイベントみたいでね~、そこでやってるから行ってくれば?」
「やる! やりたい!」
「はい。二人で回してきなさい」
楓から券を受け取り、イベントが行われている会場に向かい列に並んだ。
「見て見て、一等は秋の紅葉ペアチケットだって!」
「ペアね~」
「当たったら天宮さんと行ってくればいいじゃん!」
「天宮ってお前な……」
それも悪くないかも、と一瞬考えてしまった樹であったが、天宮なら断るだろう。
(当たったら母さんと父さんにやればいいか)
そんなことを考えていると順番が回ってきた。
券を二枚渡し菜月が先に回す。
「一等を当てるからねお兄ちゃん!」
「はいはい。頑張って」
ガラガラと回す菜月。そして、コロンっと玉が出てきた。
「残念。参加賞でティッシュ箱ね~」
ティッシュ箱を受け取った菜月は樹へと口を開いた。
「む、無念……あとは任せたよお兄ちゃん」
「はいはい」
樹もガラガラ~っと回し出てきた玉の色は──金色だった。
チリンチリンとベルを鳴らした。
「おめでとうございます! 一等の秋の紅葉の旅ペアチケットです!」
「ま、まじか……」
当たるとは思ってもいなかった樹。そんな一等を当てた樹を見て菜月は目を輝かせていた。
「さっすが私のお兄ちゃん! 変な所で運があるよね!」
「変なとは余計だ」
菜月にそう言って、ペアチケットが入った景品をもらいその場を後にした。
そして、楓と東の元に戻り一等が当たった事を報告した。
「流石我が息子だ! でかしたぞ!」
「そうね~、でもペアチケットでしょ?」
「そうなんだ。ほら」
景品のチケットを楓に差し出す。
「いいの?」
「行く人がいないからな。それなら母さんと父さんで行ってきた方が良いでしょ?」
樹と言葉に楓と東の二人は顔を見合わす。
「分かったわ」
「そうだな」
チケットを受け取った楓と東。
そもそも二人が貰った券で当てたので、渡すのは当たり前だ。
そう思い帰ろうとすると、一箇所が騒がしい事に気づく。
「何かしら?」
「もしかして何かのイベント!?」
「おい待て菜月」
菜月は制止の声を聞かずに、人が集まる方へと向かって行った。
少しして菜月が戻ってくる。だが、その顔はどこか驚いているようだった。
「お兄ちゃん! 天宮さんだよ!」
「天宮? なんでここに天宮が?」
「それは知らないよ! でも何か困ってるっぽい」
近所のショッピングモールなので天宮がいても不思議ではない。だが、天宮が困っているのなら放っておけはしない。
「悪い少し見てくるわ」
「はいは~い。真白ちゃん連れてきてね~」
「天宮さんか。樹早く連れて来るんだぞ?」
「お兄ちゃん私は待ってるから~」
「お前らな……」
樹は呆れながらも人混みの中を掻き分けて進んでいく。天宮に何かあったか心配になる樹。そうして人混みを掻き分けて前に出ると。
「うちの事務所でモデルをやって欲しいのです! 貴方のような美しい女性は放っておけません!」
「あの、すみません。興味がありませんので」
「そこを何とか!」
黒いスーツ姿の男性が天宮へと頭を下げていた。
どうやらモデルのスカウトだったようだ。
「まじで天宮だわ……」
自身の名前を呼ぶ声が聞こえたのか、天宮が見渡すと──樹と目が合った。
「……桐生さん?」
天宮の目は助けて欲しいと、樹に訴えていた。
(しょうがないな)
樹はスーツ姿の男性に声をかけた。
「あのー、すみません」
「……あなたは?」
「この人の連れなんです。困っているのでお引き取り願えますか?」
「君はこの人の誰なんだね?」
樹は天宮の目を見て、ごめん、と謝った。
「──彼氏ですが?」
「……そ、そうですか」
「それでは失礼して」
スーツ姿の男性にそう言って、樹は天宮の手を引いてその場から立ち去った。楓達の下に戻りながら天宮に謝る。
「すまん。ああ言うしか方法が思い付かなかった。不快な思いをさせた。本当にすまない」
立ち止まり頭を下げた樹を見て天宮は口を開いた。
「いえ。こちらこそ助かりました。まさか桐生さんがいるとは……」
「……いいのか?」
「はい。こうやって助けてくれましたので。それに──でしたし」
最後のは小さくて樹の耳には届かなかった。
「天宮今なんて?」
「いえ。助けて貰ったのは二回目でしたねって」
「そう言われてみればそうだな。それとなんだが今家族で来ていてな……」
「ご家族で? それはすみませんでした」
家族で楽しい買い物を邪魔したと思った天宮は樹に謝る。
「いや、気にするな。それに天宮を連れて来いよって言われてな……」
「ふふっ、ではご一緒いたします」
「いいのか?」
「はい」
笑顔を浮かべ答える天宮。
こうしてスカウトマンから天宮を助けた樹は、天宮を連れて家族の下に戻るのだった。
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