10話:断じて違うからな!
家に帰った樹はお風呂に入りながら今日の出来事に関して考えていた。
学校では見ることの無い新しい一面を見たり、素だろう性格もわかった気がした。
こんな天宮の姿は学校では一生見ることは無いだろう。
そう思い風呂から上がりリビングに向かうと、菜月がジト目でこちらを見ていた。
「な、なんだよ……?」
「別に。お兄ちゃんだけ天宮さんのお家に食べに行ってずるいとか思ってないし」
(思っていたのか……)
菜月を連れて行ってもいいのだが、それには天宮の了承が必要だ。
多分、来てもいい、とは言われそうではある。
「そうか。また機会があれば菜月もいいか聞いてみる」
「……約束だよ?」
「わかったわかった」
「やったぁぁっ!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ菜月を尻目に、樹はさそくさと自室に戻った。
布団に横になった樹は、ココ最近の出来事を思い出していた。
これからも関わりがないと思っていた天宮と、話す機会が多くなったからでもある。
なんて事を思っていると睡魔が襲ってきて、樹はそのまま身を委ねるのであった。
翌朝。
「お兄ちゃん朝だよ!」
妹の手によって掛け布団が剥がされた。
十月下旬と言うこともあり朝はかなり冷え込む。掛け布団を剥がされた事により、樹は丸まるようにして口を開いた。
「あと五分……」
「ダメ! そう言ってお兄ちゃんはいつも起きないんだから! 早く起きるの!」
「……わかったよ」
体を起こし、ふあ~と欠伸をして腕を伸ばす。
「着替えるから部屋から出て行ってくれ」
「なに? お兄ちゃん恥ずかしいの?」
「そうかい」
朝だからか頭の回転が追いつかないが、菜月に馬鹿にされた事だけは理解できた。
なので着替え始めることに。
「って! なに人前で脱いでんの!」
「……お前が言ったんだろ。着替えるから早く出て言ってくれ」
「ふんだ!」
菜月が部屋を出ていったので着替えを再開する。
着替え終わり下の階に行く。
「樹おはよう。顔洗ってきなさい」
「ん」
母の楓にそう言われ樹は洗面所に行って顔を洗う。
戻り楓に尋ねる。
「父さんは?」
「東さんならもう出ていったわ。今日は早い日みたいで」
「そうか」
「ほら、ご飯食べちゃいなさい」
菜月がご飯を食べていたので隣に座り朝食を食べる。
今日はいつもより早く起きたので、家でゆっくりしてから学校に行こうと考えていたのだが、そんな考えは楓によって打ち捨てられた。
「ゆっくりしようとか考えちゃダメよ。早く行きなさい」
「……エスパーかよ」
「母さんに分からないものはないわ」
そう言った楓に菜月は聞いた。
「今日の天気は?」
「晴れよ~」
菜月が外を見る。釣られて樹も外を見た。とても良い秋晴れである。
「ほんとだ! 流石あたしのお母さん!」
「ふふっ、褒めても何も無いわよ?」
(いや、どう見たって母さんの方が早く起きてるし、そもそも菜月だって外見てたろ……)
思うも口には出さない。どうせ何か言ってくるだけなのだから。
「ご馳走様。部活だからもう行くね!」
「いってらっしゃ~い。気をつけなさいよ」
「は~い」
そう言って菜月は先に出て行ってしまった。
「それで? 樹は彼女の事どう思ってるの?」
「ブフォッ!」
モーニング珈琲を飲んでいた樹は、楓の質問に珈琲を吹き出した。
慌てて口を開く。
「き、急に何言ってんだよ!?」
「あら? 違うの?」
「違うから! 俺と天宮はそんな関係じゃないって!」
断じてそんな関係では無い。樹と天宮の関係は、困っていた天宮を樹が助け、天宮が樹に恩を感じている。ただそれだけの関係なのだ。
そうなのだろうか……?
一瞬そう思ったが樹にはそうだとしか思えない。
「もう行くから。ご馳走様」
「あら、もう行くの?」
「誰が早く行けって言ったんだ!」
「ふふふっ、行ってらっしゃい」
こうして樹は逃げるようにして家を出て行った。
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