1話:聖女様の涙
今回は初の恋愛小説を書かせていただきました。
初ジャンルと言うことで至らぬ点があるとは思いますが、なにとぞご容赦してください。
現在高校一年の桐生 樹は、下校途中にある近所の公園ベンチで俯く彼女を見つけた。
彼女の名前は天宮 真白。彼女とは同じ高校で同じクラス。
品行方正、成績優秀。そして、なんと言っても彼女――天宮真白は美しく可憐であり、崩れることのない微笑みをし、困っている人がいれば助ける。そんな彼女だからか、周囲の人達は自然と『聖女様』と呼ぶようになっていた。
陽が傾いた秋の茜色の空、夕焼けが彼女の背中を照らしていた。肌荒れや日焼けを知らないような白磁のような白さを保つ肌。彼女の蜂蜜色のストレートヘアが、夕焼けの光を反射し光沢を放っていた。
そんな夕焼けの光ですら、彼女の美しさを引き出すための道具の一つにしか見えなかった。
彼女の表情を伺おうとした樹は、前髪で影が差しており伺うことは出来なかった。
「一体何をしているのだか……まあいいか」
そう小さく声を零し、見て見ぬふりをして公園を通り過ぎようとした。
『困っている人、助けや救いを求めている人、泣いている人がいたのなら、その手を差し伸べてやりなさい』
去年病気で他界した祖父の言葉が思い出される。
「ちっ、何でこんなときに思い出すんだ……」
大好きだった祖父が残した言葉。約束したからには、祖父が残した言葉を裏切る真似は出来なかった。
「はぁ、分かったよ爺ちゃん」
天国にいるだろう祖父にそう言って、樹はベンチに座って俯く天宮に歩み寄り声をかけた。
足音に気づいたのか、彼女は振り向きこちらを見た。学校では崩れることないその微笑みが今では崩れ、涙が零れ落ちそうな悲しそうな表情だった。
「大丈夫――じゃなそうだな」
「……桐生さん?」
いつもでは大きくぱっちりとして、慈愛にあふれるそのカラメル色の瞳から――涙が零れ落ちた。だが、彼女の視線はこちらを捉えていた。
「……あの――」
「それより涙を拭けよ。痕になる」
天宮の言葉を遮ってハンカチを差し出した。
差し出されたハンカチに戸惑うも、天宮は受け取ることを選んだようだ。
「……ありがとうございます」
ハンカチを手に取り涙を拭きとる彼女。そして、涙を拭き終わった天宮は膝の上でハンカチを握りしめながら再び樹に尋ねる。
「ありがとうございます。それで、何故桐生さんがここに?」
「ここは俺の帰り道だからな。それに聖女様がここにいるとは思わなかった」
樹の『聖女様』という発言に天宮はピクリと反応を示した。
「……その『聖女様』って呼び方は嫌いです」
「ごめん。なら天宮でいいか?」
「それでお願いします……それと、私もここは帰り道なんです」
「まじか……」
この帰り道はどうやら天宮も同じだったようで樹も驚いた。
少しの間無言になったのだが、天宮が樹に尋ねた。
「桐生さんは何も聞かないんですね……」
「逆に聞くが聞いてほしいのか?」
人に聞かれたくないことくらい誰にだってありはする。躊躇いなく聞くほど樹は無粋ではないのだ。
天宮は首を横に振って口を開く。
「いえ。そうしていただけると助かります……」
「ああ。それじゃあ俺は帰る。天宮も早く帰るんだぞ」
「あの――」
天宮の言葉を最後まで聞かず、樹は早々に公園を立ち去るのだった。
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