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長い長い夢の中で  作者: 早瀬 薫
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五章

 がっこうからかえってみると、げんかんがしまっていて、いえにはいれなかった。まったく、お父ちゃんは、あさ、わたしが、「きょうはせんせいがいえにくるから」ときをきかせてちゅういしてあげたのに、そんなことはすっかりわすれて、またいつものようにふらっとどっかにいったんだとおもう。あした、がっこうへいったら、せんせいにあやまっておかなくちゃ。だけど、きょうはわたしもはやくかえる日だったのに、それもわすれてるなんて……。カギだって、うえ木ばちの下をみてもおいてなかったし、ゆうびんうけのおくにもはりつけてなかったし、しかたがないからこはるちゃんにくっついて、こはるちゃんちで五じまであそばせてもらうことにした。こはるちゃんもわたしとおなじで、お母さんとぎりのお父さんが、ひるまははたらいているから、だれもいえにいなくて、だから、わたしとおなじで、いつもはがくどうほいくにいっている。うちのお父ちゃんはいえにいるけど、わたしがいるとしごとができないみたいで、だからわたしもがくどうほいくにいっている。いえにいたって、きょうだいがいないし、お父ちゃんのしごとのじゃまになるし、だからいつも一人のようなものだし、がくどうほいくにいって、こはるちゃんやほかのおおぜいのともだちとあそんでいるほうが、よっぽどたのしい。じどうかんにはたくさんこどもがいるし、おおぜいでやるオニごっこやカンけりやドッジボールやサッカーやトランプやすごろくはすごくたのしい。がっこうたんけんをやるのもたのしい。だけど、おかしづくりもけっこうすき。わたしのそういうところは、うちのお父ちゃんはたぶんしらないとおもう。だって、お父ちゃんはおかしづくりをおしえてくれたことがないもの。カレーとかチャーハンのつくりかたはおしえてくれたけど……。おとといは、せんせいがホットケーキのつくりかたをおしえてくれた。こんど、ひとりでつくって、びっくりさせてあげようとおもう。

 こはるちゃんには、ふゆみちゃんというちゅうがくせいのおねえちゃんがいて、わたしはいつもうらやましいというんだけど、こはるちゃんは「いじわるだからいないほうがマシ」といつもいってる。でもわたしはやっぱりこはるちゃんがうらやましい。だって、べんきょうだっておしえてもらえるし、やすみの日はごはんだってつくってくれるといってたから。きょう、いえにはいれなかったので、こはるちゃんのいえにいっしょにいったんだけど、まだ一じはんだったからだれもいないとおもってたのに、おねえちゃんがひとりでいえにいたのでびっくりした。おねえちゃんのほうもびっくりしてたみたいだけど……。きょうは、わたしたちがはやくかえることをしらなかったんだなとおもった。こはるちゃんのおねえちゃんはわたしにはすごくやさしくて、まえにあそびにきたときも、ココアとたこやきをつくってくれて、しゅくだいもてつだってくれて、わたしは「ふゆみちゃんみたいなおねえちゃんがほしい」といったら、おねえちゃんはすごくニコニコしてた。こはるちゃんは、どうしてだかぶすっとしてたけど……。だから、きょうもやさしいのかとおもってたら、おねえちゃんはわたしたちのかおをみると、なんにもいわずに二かいのじぶんのへやにとじこもってしまった。ちょっとびっくりした。こはるちゃんもびっくりしてたみたいだけど、「いつきげんがわるくなるのか、さっぱりわからないの」とあまりきにしてないみたいだった。でも、やっぱりへんだなとおもう。おねえちゃん、ないていたようなきがしたんだ。だって目があかかったもん……。だけど、おねえちゃんのカバンは一かいのだいどころのテーブルの上におきっぱなしで、よくみると、カワのカバンなのに、はしっこにおおきなあながあいていた。だからわたしはいそいでこはるちゃんをよんで、カバンをみせたら、こはるちゃんもびっくりしていた。こはるちゃんはカバンをそっとあけて、中をのぞいてみたんだけど、きょうかしょがぜんぶどろだらけになっていて、さっきよりもっとびっくりした。こはるちゃんはいそいでおねえちゃんのへやへいって「なにかあったんでしょ!」ときいてみたけど、おねえちゃんに「うるさい! あっちへいけ!」といわれたので、しかたがないので、ふたりでしたへおりてほんをよんでいたんだけど、こはるちゃんが「そとであそぼう」といったので、三じまでこうえんでおとこのこたちとサッカーをしてあそんで、そのあとまたいえにかえって、テレビゲームをしてあそんだ。

 四じはんになったらこはるちゃんのお母さんがかえってきたので、「かえろうかな」といったら、「五じまでいいじゃん」とこはるちゃんがいってくれた。つくえのひきだしからぬりえちょうをもってきて、こはるちゃんとぬりえをした。五じになったので、わたしもいえにかえってみたら、お父ちゃんがいた。お父ちゃんに「きょう、せんせいがくるのをわすれてたでしょ!」とおこったら、「うん、わすれてたんだけど、でもうまくいった」といったので、「なにが?」といったら、お父ちゃんは「ちょうのうりょくをつかったら、せんせいがいけぶくろまであいにきてくれた」といったので、なにをいっているのかさっぱりわからなかった。でも、せんせいとはなしができたといった。だから「じゃあ、わたしはあした、せんせいにあやまらなくていいんだね?」といったら、お父ちゃんはすごくわたしにわるいとおもったのか「ごめん、ごめん」といった。「なにが?」といったら、おとうちゃんは「いつもさやかに、しんぱいばっかりさせてごめん」といった。わたしは「いいよ」とわらっていったら、お父ちゃんの目はなぜだかあかくなった。それをみてわたしが「へんなの」といったら、お父ちゃんは「なにがへんなの?」といったので、「ふゆみちゃんの目もあかかったから」といったら、お父ちゃんが「どうして?」といった。どうしてときかれてもこはるちゃんのいえでおこったことを、さいしょからぜんぶはなすのはめんどくさい。でも、なんどもなんどもお父ちゃんが「どうして? ねぇ、おしえて」ときいてきた。しかたがないので、こはるちゃんのいえでみてきたことを、ぜんぶお父ちゃんにはなしたら、お父ちゃんはきゅうにおとなしくなって、口をきかなくなった。ふたりでカレーライスをつくってお母さんがいるぶつだんにそなえてから、「いただきます!」といってたべたんだけど、お父ちゃんはずっとだまったままだった。いつもは、「きょう、がっこうでなにをしたの?」とうるさいくらいにきいてくるのに……。へんなの……。

 きょうは、ふゆみちゃんもお父ちゃんもほんとにへんだった。


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