四十四章
清水亜由美からもらったUSBメモリを、パソコンに差し込んだ。USBメモリにはワードファイルが記憶されていた。僕はそのファイルをクリックした。そこには、美里から僕へ宛てたメッセージが書かれていた。
浩紀さんへ
浩紀さんがこれを読む頃には、私はもうこの世に存在していないと思います。浩紀さんは、生まれてきた子供とどんな生活を送っているんだろう? そのことを知ることができないのは、本当に残念です。
新婚旅行でモンブランへ行ったでしょう? 結局、頂上には登らなかったけど……。だけど、エギーユ・デュ・ミディからのモンブランの眺めは最高だったね。シャモニーでホテルに泊まったとき、ホテルの敷地内にすごい大きな素敵なモミの木が一本植わってたでしょ? あそこで二人で写真を撮ったと思うんだけど、覚えているかな? 実はあの木の下に、浩紀さん宛への手紙が埋めてあるの。清水亜由美さんという世界を放浪している友達に、無理に頼んで埋めてもらいました。
生まれた子供は男の子かな? 女の子かな? 先生に教えてもらえばよかったかな。手紙は浩紀さんへ宛てたものだけど、その子が大きくなったら、その手紙をきっと読ませてあげてください。
美里
僕は美里からのメッセージを読んで、複雑な気持ちになった。彼女が残したものが新しく見つかったのはうれしかったけれど、今も彼女が生きているかのような文面は、読んでいて辛かった。でも、僕はもう一度、シャモニーへ行かなければならない。どんなことをしてでも……。そう思った。そのときは、彩夏も一緒に連れて行こうと思っていた。