四十二章
片桐浩紀という人が突然僕を訪ねてきた。全く面識のない人で、最初は本当に面食らった。名刺をもらって肩書きをみたら、ミステリー作家と書かれていた。ますます僕は訳が分からなくなった。けれども、片桐浩紀は僕が想像もしなかった恐ろしいことを口にした。亜由美が自殺を図った、と……。僕はパニックに陥った。だけど、そんな僕のようすをすぐに察知した彼は「大丈夫です。確かに亜由美さんは、ビルから飛び降りたけれど、奇跡的に命は助かったんです。今、彼女は都内の病院に入院しています」と言った。そうして、「亜由美さんから預りました」と、亜由美が飛び降りる直前に書いた僕への手紙を渡してくれた。
「本当は、亜由美さんはその手紙を僕に処分してくれと言ったんです。悟さんのことはもう愛していないからと。だけど、それは本心じゃないと思う。だから、僕はあなたへこの手紙を届けなければと思ったんです」
「そう、ですか……」
「ええ」
「実は、三ヶ月前から、亜由美と連絡が取れなくなっていたんです……。彼女と付き合い始めてから、こんなことは初めての経験だったので、僕はものすごく彼女のことを心配していたし、動揺しました。だけど、もしかしたら、僕はふられたのかなとも思ってた。最初は心配してたけど、一ヶ月、二ヶ月と経つうちに、だんだん腹が立ってきていました。だって、別れるにしたって、ちゃんと連絡してくれればいいじゃないですか。僕は亜由美と真剣に付き合っていました。彼女もそうだと思っていた。だけど違っていたのかもしれない、そう思うようになっていました。でも、やっぱり、そうじゃなかったんですね……」
僕はそう言って、「悟、愛している」と書かれた手紙をじっと見つめた。亜由美が死の間際に書いた手紙だった。死のうとしている人間が、最後に残すものは真実であるに違いない。
「宮原さん、僕と一緒に東京へ来ていただけますか?」
「もちろん」
そう僕は言った。