表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長い長い夢の中で  作者: 早瀬 薫
38/44

四十二章

 片桐浩紀という人が突然僕を訪ねてきた。全く面識のない人で、最初は本当に面食らった。名刺をもらって肩書きをみたら、ミステリー作家と書かれていた。ますます僕は訳が分からなくなった。けれども、片桐浩紀は僕が想像もしなかった恐ろしいことを口にした。亜由美が自殺を図った、と……。僕はパニックに陥った。だけど、そんな僕のようすをすぐに察知した彼は「大丈夫です。確かに亜由美さんは、ビルから飛び降りたけれど、奇跡的に命は助かったんです。今、彼女は都内の病院に入院しています」と言った。そうして、「亜由美さんから預りました」と、亜由美が飛び降りる直前に書いた僕への手紙を渡してくれた。

「本当は、亜由美さんはその手紙を僕に処分してくれと言ったんです。悟さんのことはもう愛していないからと。だけど、それは本心じゃないと思う。だから、僕はあなたへこの手紙を届けなければと思ったんです」

「そう、ですか……」

「ええ」

「実は、三ヶ月前から、亜由美と連絡が取れなくなっていたんです……。彼女と付き合い始めてから、こんなことは初めての経験だったので、僕はものすごく彼女のことを心配していたし、動揺しました。だけど、もしかしたら、僕はふられたのかなとも思ってた。最初は心配してたけど、一ヶ月、二ヶ月と経つうちに、だんだん腹が立ってきていました。だって、別れるにしたって、ちゃんと連絡してくれればいいじゃないですか。僕は亜由美と真剣に付き合っていました。彼女もそうだと思っていた。だけど違っていたのかもしれない、そう思うようになっていました。でも、やっぱり、そうじゃなかったんですね……」

 僕はそう言って、「悟、愛している」と書かれた手紙をじっと見つめた。亜由美が死の間際に書いた手紙だった。死のうとしている人間が、最後に残すものは真実であるに違いない。

「宮原さん、僕と一緒に東京へ来ていただけますか?」

「もちろん」

 そう僕は言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ