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長い長い夢の中で  作者: 早瀬 薫
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三十一章

 池田小春が再び順調に学校に来られるのかと心配したが、片桐彩夏の父親の配慮のおかげで、池田小春と片桐彩夏はいつも仲良く一緒に登校するようになった。あの事件があった一週間後に家庭訪問をして、母親とじっくり話すことができた。母親は夫と離婚することを決めたと言った。冬美を虐めていた香奈という同級生の母親にも会いに行き、今までのことを詫びたそうである。もともと冬美と香奈は小学生の頃から仲が良く、母親同士も子供を通じて相手に対して良い印象を抱いていたから、一旦事が動くとすぐに解決したらしい。母親は片桐彩夏の父親にいたく感謝していた。「あの方のおかげで目が覚めました。そうですよね。お金なんかなくてもしあわせですよね。親子が仲が良いことのほうが、どれだけ幸せなことか! 子供のために父親がいたほうがいいと思って再婚したのに、彼は父親でも夫でもありませんでした。私が離婚を決めると、冬美もずいぶん落ち着いて来ました。これからは親子三人、仲良くやっていきたいと思っています」と母親は語った。そのことを片桐彩夏の父親にも電話で伝えたが、彼も池田小春の母親からすでに連絡をもらっていたらしく、すごく喜んでいた。

 ずっと頭の中を占めていた懸案が片付いて、心の中は晴れ晴れとしていた。教師になって今年で七年になるが、あんな騒動を目の当たりにしたのは初めてのことだった。教師という職業は、子供はかわいいし、やりがいもあるが、時として解決できないのではないかと思うくらいの難事件に遭遇してしまう。子供の虐めはほとんどといっていいほど、大人の前では行われず、子供の間だけで行われていることがほとんどだからである。最初は小さくても、発覚したときは手のつけようがないくらい大きくなっていることも多い。

 悲劇にならなくて良かった、とつくづく思った。何もかも片桐彩夏の父親のおかげだと思う。教師は全てを自分で解決しなければならないと気負わずに、やはり保護者や周囲の人に、協力してもらうべきだと思う。でも今回の事件で、すごく感動したのは、やはり片桐彩夏の父親の言葉だった。彼の言動には冬美を心底心配していることが強く覗われた。母親も同じである。人を立ち直らせることができるのは、叱咤ではなく、やはり愛情なんだなと思う。人は愛情を感じることで心を開くものだから。


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