二十章
また、どようびになったので、わたしはおばあちゃんのいえにいる。お父ちゃんのおばあちゃんへのおみやげは、きょうはめずらしくイチゴのショートケーキだった。わたしはすごくうれしかった。だって、わたしのだいこうぶつなんだもん! お父ちゃんは、おばあちゃんはこうちゃがすきだから、こうちゃにあうケーキもたまにはいいよね、といった。イチゴのショートケーキをおばあちゃんといっしょにたべてたんだけど、おばあちゃんが「さやかはこのケーキがすきなの?」ときいてきたので、わたしは「うん」とこたえた。それをきいて、おばあちゃんがずっとだまっているので、わたしもきになってしまって、おばあちゃんのかおをぽかーんとながめていたら、おばあちゃんが「じつはね、みさともすきだったのよ。やっぱりさやかはみさとににているわね」とさびしそうにいった。わたしは、「そうなの! お母さんもすきだったの?」とうれしそうにきいたら、おばあちゃんはうなずいた。
いままでお母さんのことをお父ちゃんやおばあちゃんにきくと、ふたりともいつもなきそうなかおになるので、なかなかきけなかったんだけど、おばあちゃんは、「さやかだって、お母さんのことをしりたいよね」といって、はなしてくれた。
「さやかのお母さんはね、とってもおてんばだったの。そういうところは、さやかとそっくりだとおもうわ。おにんぎょうであそんでるところなんて、一どもみたことがないもの。いつもそとでたんけんごっこをしてるようなこどもだったの。でも、さやかのお父さんとおなじで、パズルはすきだったわね。それと、チェスも。お父さんはチェスはされるの?」
「ううん、してるのはみたことがない。でもわたしはお父さんとたまに五もくならべをしてるよ。わたしはジグソーパズルをいっつもしてるの。いまはね、おたんじょうびにもらったモンブランのジグソーパズルをくみたててるの」
「モンブランって、お父さんとお母さんがしんこんりょこうにいったモンブラン?」
「うん! としょしつにかざってあるしゃしんとおなじモンブランなんだよ」
「そう……。お母さんは山のぼりがすきだったわね。でも、きけんなことは一どもしなかった。いつもハイキングみたいに、あんぜんにのぼれるところしかのぼらなかったわ。『わたしには山のぼりのさいのうがないの。いつもむぼうなことしてしまうから。いっしょにのぼるひとにめいわくをかけたくないから、たかいやまにはのぼらないわ』といっていたわ。そういうところはすこしおくびょうだわね」
「おばあちゃん、むぼうってなに?」
「あ、ごめん、ごめん。むずかしいことばだったわね。むぼうって、むちゃなことよ。きけんなことをへいきでしてしまうってことよ。さやかにもそういうところがあるんじゃないの?」
「えー、そうかな」
「お母さんは『ひろきさんとけっこんしてかぞくになるから、もうむちゃなことはしないわ』といってたわ。さやかがおなかにいたとき、お母さんはすごくうれしそうだった。それなのに、こんなにはやくなくなってしまうなんて、お母さんもすごくこころのこりだったとおもうわ……」
おばあちゃんはそこまでいうと、なみだぐんだ。わたしは、一ばんききたかったのに、きけないでいたことを、おもいきってきいてみた。
「お母さんはどうしてしんじゃったの?」
そうわたしがいうと、おばあちゃんはわたしのかおをびっくりしてみて、さっきより大きななみだのつぶをぽろぽろとこぼした。
やっぱり、きいちゃだめだったんだなとおもった。わたしは、おばあちゃんになんどもなんども「ごめんね」とあやまった。
おひるごはんをたべたあと、わたしはまたとしょしつにいってみた。モンブランのしゃしんは、せんしゅうとぜんぜんかわらなかった。だけど、としょしつのドアをあけて、中にはいったあと、やっぱりへんなきぶんになった。ぜったいここにはなにかあるとおもう。それがなんだかわからないんだけれど……。
モンブランのしゃしんがかかっているかべにみみをあててみた。きょうはなんにもきこえない。なーんだ、つまんないなとおもって、おてつだいさんのへやへあそびにいこうとおもって、としょしつをでようとしたら、うしろでガタッとおとがした。びっくりしてふりむいたら、ほんだなからほんがおっこちていた。なんのほんだろう?とおもって、ちかづいてみてみたら、えほんだった。そのほんはいちばんうえのたなから、おっこちたみたい。おっこちてきたたなをみあげてみたら、えほんがいっぱいならんでいた。なんだ、ここにはむずかしいほんしかないのかとおもってたら、いちばんうえのたなに、わたしがよみたいほんがいっぱいあったんだなとおもった。でもはしごがないととどかない。おてつだいのやまださんに、はしごをもってきてもらおうとおもった。
おてつだいさんのやまださんに、ものおきの中からはしごをさがしてきてもらって、としょしつの一ばん上のたなをみてみたら、おもしろそうなほんがいっぱいならんでいた。「ねずみのひっこし」、「かえるのおじさん」、「ねこのあかいぼうし」、「うしさんとうまさん」、「こぐまのアランのぼうけん」。なんだかどうぶつばっかりだなとおもった。お母さんはどうぶつがすきだったのかなとおもった。おじさんがすきだったのかもしれないけど……。あとは、しょくぶつずかんやこんちゅうずかんやみやざわけんじやシャーロックホームズやしょうねんたんていだんやガリバーりょこうきやいろんなほんがいっぱいあった。きになるほんでいっぱいだったので、どれからよもうか、すごくまよった。でもほんだなのいちばんはしっこにある「せかいのやま」というほんがすごくきになったので、そのほんをほんだなからとりだした。おばあちゃんに「もってかえってもいい?」ときいてみたら、「いいわよ」といったので、もってかえってゆっくりよもうとおもった。