十八章
村上修司の様子がどこかおかしい、そう気付いたのは彼と出逢って、三度目の冬だった。風邪など滅多にひいたことのない彼が夏風邪をこじらせ、そのまま冬までずっと体調を崩していた。それなのに、多忙な彼は、一度も医者にかかることなくその冬をやりすごした。村上は見るからに痩せ細り、どんどん体力をなくしていった。何かがおかしい、そんな気がしていた。春になり、私は、弱っている村上を無理矢理医者に診せた。私の悪い予感は当たった。彼は、もはや治る見込みのない病を発症していた。
私は村上を家族の元に返すべきかどうか悩み苦しんだ。けれども、最後には、彼自身が私と一緒にいることを選択してくれた。「家族には、自分が亡くなった後も、十分暮らしていけるだけの財産は残せるはずだ」と彼は言った。私はその言葉を聞いて安堵していた。村上の家族に対して、後ろめたい気持ちがあったからである。あと何日、彼と一緒に過ごせるのだろう?
私達は日本に帰国し、暖かい沖縄に居を構え、最後のときを彼と二人で静かに過ごした。病院でなく自宅で過ごすことにしたのは、村上が延命治療を拒否したからだった。
村上はある朝、眠るように亡くなっていた。私は、安らかに眠る彼の顔を撫でた。彼の顔は氷のように冷たかった。私は、絶望の淵に落とされた。