十七章
こはるちゃんががっこうにこない。こはるちゃんがいないとがっこうがつまらない。がくどうほいくもこはるちゃんがいないとつまらないから、じゅぎょうがおわるとさっさといえにかえった。いえにかえったら、お父ちゃんが「どうしたのっ!?」とびっくりしていたけど、そんなのしるもんか。たまにいえにはやくかえったっていいじゃん! でも、お父ちゃんが、ずっとしつこく「どうして?」ときいてきたので、「こはるちゃんがずっとやすんでるから、つまらないからかえってきたの!」といったら、お父ちゃんはすごくへんなかおをした。「こはるちゃんはどうしてやすんでいるの?」とか「なん日やすんでいるの?」とか「お母さんにあった?」とかいろいろきいてきた。わたしはそのたびに、「かぜ」、「いっしゅうかん」、「あってない」とこたえた。こたえてあげないと、ずっとおなじことをきかれそうだったから、めんどくさいけどこたえてあげた。
いえのなかにいても、お父ちゃんのしごとのじゃまになるから、にわにでて、ありんこのすをみつけて、つまようじでつついたり、むしをつかまえてかんさつしたり、はなのたねをあつめていたら、きんじょのひとつとししたのまさるくんがわたしをみつけて、「サッカーやろう」とさそってきた。わたしもしようがないから、さいしょはいっしょにサッカーをしていたけど、一じかんやったらあきてしまった。だって、おとこのこってひきょうなんだもの。いっつもはんそくばっかりする。しょうたくんなんていつもボールをてでつかもうとするんだから! サッカーは、てをつかったらだめなんだよ!
むしゃくしゃするから、いえにかえってきてへやにとじこもって、ひとりでジグソーパズルをしていたら、おとうちゃんがしんぱいして、しょっちゅうへやにはいってくるので、「いいかげんにして!」とおこったら、おとうちゃんはしゅんとしてしまった。そんなにしんぱいなら、こはるちゃんのいえにようすをみにいけばいいのに……。いえのなかでウロウロしたって、なんにもかわらないじゃん。さっき、お父ちゃんにきつくいってしまって、すこしわるかったかなとおもうから、きょうのゆうはんは、わたしがひとりでチャーハンとスープをつくってあげようとおもう。まったく、おとうちゃんはおとなのくせに、てがかかってしようがない。
ゆうはんをたべたあと、モンブランのジグソーパズルをした。モンブランはしろとはいいろとみずいろとみどりばっかりで、こどものわたしでも、ずっとやっていると、めとあたまがいたくなってくる。おとうちゃんがまたそばにきて、てつだおうとしたがるので、わたしは「これは、わたしがたんじょうびにもらったものだから、ひとりでやるの!」といったら、また、おとうちゃんがしょげかえった。まったく、ほんとうに、お父ちゃんはてのかかるおとなだ。
ジグソーパズルをくみたてるとき、いちばんさいしょにやることは、いろべつにピースをわけること。だから、モンブランのジグソーパズルのピースは、しろ、はいいろ、みずいろ、みどりと、おおまかにピースを四つにわけて、やまもりにしておく。それをやっているときに、はしっこにくるまっすぐなだんめんがあるピースをみつけると、それもまた、おなじようにやまもりにしておく。だいたいわけおわったら、はしっこにくるピースをくみたてていく。みんな、にたようなかたちをしてるのに、ぴたっとはまるピースがきっちりときまっているのは、いつも「なんで?」とおもう。ほかのピースはぜったいにはいらないもん。ジグソーパズルをつくっているひとって、すごいなとおもう。いったいどうやってつくっているんだろう? ひとつひとつ、てでかたちをかいてから、きりはなしてるのかな。
やまが五つできても、いろでわけられないピースがあって、それはそれで、ぜんぶまとめて六ばんめのやまになるんだけど、こんかいはかずがすごくすくなくて、八こしかなかった。そのピースをじーっとながめてたんだけど、それがなにかすぐわかったのでくみたててみたら、お父ちゃんとお母さんのツーショットだった。あれ? これって、としょしつにかざっているしゃしんとすこしちがうのかなとおもった。でも、ほかのところはいっしょだとおもうんだけどな。だけど、くみたててみたのはいいけど、まん中にあながぽっかりあいている。九こじゃないと、ツーショットはかんせいしないみたい。のこり一このピースは、たぶん、ほかのピースのやまの中にまざっているんだとおもう。お父ちゃんは「できたら、きっとびっくりするよ」といってたけど、お父ちゃんとお母さんのツーショットのことだったんだろうなとおもった。かんせいさせるまえに、さっそくわかってしまって、ちょっとつまんないなとおもったけど、これをいったら、またお父ちゃんがざんねんがるとおもったので、だまっておくことにした。だから、わたしはくみたてた八このピースをまたばらばらにして、小さなやまにしておいた。
どようびになったので、わたしはまたおばあちゃんのいえにいった。おばあちゃんのいえにいったら、としょしつにとじこもって、モンブランのしゃしんをじっとみた。モンブランのしゃしんをみて、かたちとかげをおぼえておいて、ジグソーパズルをくみたてるときにやくにたてようとおもうんだけど、いえにかえったらいつもすっかりわすれてしまう。こんど、お父ちゃんに、あのしゃしんとおなじものがないかきいてみようとおもう。おなじしゃしんをみながらだと、くみたてるはやさがぜんぜんちがうもの。でも、きょうもいつもとおなじように、モンブランのしゃしんをじっとみてたら、なんだかへんなきもちがしてきた。せなかがぞわっとした。へやのくうきもいつもよりつめたいとおもう。なんだか、だれかにじっとみられているようなきがする。それで、ぱっとうしろをふりかえったけど、やっぱりだれもいなくて、へやにはわたししかいなかった。だから、またじっとしゃしんをみてたら、こんどはこえがしたようなきがした。しかもそのこえは、モンブランのしゃしんからきこえてきたようなきがする。わたしはこわくなったけど、しゃしんがかかっているかべにちかづいて、みみをあててみた。そしたら、やっぱり小さなこえがかべのむこうからきこえてきたようなきがした。おんなのひとがうたをうたっているようなこえだとおもう。でも、もうひとつむこうのおてつだいさんのへやからきこえてくるのかもしれない。そうおもったので、としょしつをとびだして、おてつだいさんのへやをノックしてみたけど、いっぱいまってもだれもでてきてくれないので、ドアをそっとあけて中をみてみたら、やっぱりだれもいなかった。