十六章
池田小春が学校に来なくなった。今日で一週間にもなる。母親からは「風邪で休ませます」と律儀にも毎日連絡が入るので、こちらとしてはそれ以上何もできない。昨日の夕方、自宅にこちらから電話して「家庭訪問をしたい」と言うと、「まだ、病気が治ってないですから……」と母親に言葉を濁され、電話を切られた。彼女と仲良しの片桐彩夏に池田小春のことをきいてみた。彼女には連絡帳を池田小春に届けてもらっているから。そしたら、片桐彩夏は、「毎日、パジャマで玄関に出てくるし、本当に病気だと思います」と言っていた。
本当はあまり心配することはないのかもしれない。けれども、こんな状態が今後も続くようなら、やはり彼女の家を訪れて様子を見に行ってみようと思う。母親は朝から晩までずっと働いているらしく、めったに自宅にいないそうだが、むしろ母親がいないほうが、事実確認ができて都合がいいかもしれない。しかし、頭が痛いのは義理の父親のことだった。彼が池田小春を虐待している恐れがあった。今はまだ、はっきりしたことが分かっていないし、彼に顔を合わせたくなかった。彼とは事実関係がはっきりしてから対峙したいと思っていた。