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知識を増やそう


 ごきげんよう、ルルーリアです。

 暇です。時間を持て余しています。


 五歳に戻ってみたものの、何をすればいいやら早くも暗礁に乗り上げております。

 世界を滅ぼす下準備を、と思ってもわたくしはそう簡単に屋敷から出る事が出来ません。コソコソ動こうにも常にオズワルドが付いておりますので、彼に勘付かれてしまうのです。


 五歳児らしくという制約も付いています。こんな子供の成りでは行ける場所も限られてくるのです。王子ではありませんが、城下へ行く事もままなりませんし、情報収集だとか言って酒場にでも行ってごらんなさい。首根っこ掴んでポイと捨てられてしまうでしょうね。


 それにしても日がな一日、今のわたくしはこんなにも時間を持て余しているのですが、以前はどうだったのでしょうか。そんな毎日暇だと思っていたわけではないと思うのですが。


 淑女としての教養や礼儀、マナーを叩きこまれ、女性社会で生きていく為に必要な知識を詰め込まれはしますが、大して大変ではございません。


「ルルーリア様は本当に覚えが良いですね」


 と教育係に褒められてご満悦のわたくしです。ほほほ! もっとわたくしを褒め称えて下さって結構よ!

 まぁ覚えが良いのは当たり前ですよね。二度目ですので。一度は完全にマスターしたものを一から復習しているだけですので、お茶の子さいさいでございます。


 まぁしかし時間が余って仕方がありませんので、覚えている限り前世でわたくしがどう生きたのかを纏めてみる事に致しました。

 何歳の時に誰と出会ったのか。どんな会話をしたのか。どんな行動を取ったのか。どこへ行ったのか。何を見聞きしたのか。


 記憶にある限りを書き綴りました。

 結果発表


 本当にわたくしは子供の頃の思い出がほぼありませんでした。

 覚えてないわぁ。ただただ天使のように愛くるしいとちやほやされていた思い出しか。


 わたくしの思いでの大半はジェイドに出会ってから、あの子と共に歩んだ時間のものでした。本当にわたくしはジェイド中心に生きていたのね、と痛感せずにはいられません。

 今もまた、隣にあの子がいないから、時間をどう使ったらいいのか決めかねているような気がします。


 あの子に出会う十四歳。あの時からの記憶は色鮮やかで、何もかもを鮮明に思い出せます。それに対して十三歳までの思いではセピア色と言いますか、色褪せて断片的にしか思い出を引き出すことが出来ません。


 この頃に印象的だったのはやはりオズワルドが護衛になった事と、レオナルド殿下と顔を合わせた事くらいでしょうか。

 この二つとももう済ませてしまいましたのでね。後はどうしましょう? っていう状態なわけです。他何かあったかなぁと。


 有り余る時間を使って、わたくしは前世ではしなかったことに手を伸ばそうと決めました。

 手始めに、わたくしは自分が滅ぼすと決めたものを深く知る必要があるでしょう。

 この世界についてです。


 わたくしは屋敷の書庫へ行き、神話やこの世界の成り立ち、この国の建国に関わる書物などを読み漁りました。


 まずこの世界には幾つかの大陸があります。

 竜の住む原初の森

 大きく獰猛な海獣がひしめき合う諸島。

 人間嫌いの妖精の住む辺境の孤島

 謎の古代文明が残るとされる、天空に浮かぶ大陸

 そして、それぞれの大陸に囲まれるような位置にある、唯一人間が住まう大陸。


 世界を滅ぼす、などと豪語したわたくしですが、滅ぼしたいのは勿論この人間の大陸のみです。

 竜や海獣、妖精に喧嘩を売るなんて、そんな身の程知らずな真似は致しません。まぁ彼らにチョッカイ出せば、わたくしが労せずとも瞬時にこの大陸なんて木端微塵になってしまうでしょうけれど。


 そのくらい、人間以外の生物は強い世界なのです。自然界において人間なんてちっぽけな存在というわけですわ。


 特に竜という生き物は最強です。固い鱗で覆われた巨体は、人間の剣も魔術も全く歯が立ちませんし、彼らは口から火を噴いたり人間よりよっぽど高度な魔術を使いこなすそうです。

 更に寿命はわたくし達の何十倍もあり、この世界の全てを知るとか。竜の中でも色々とランクがあるらしく、最上位のものを帝竜と呼び、彼らは叡智の存在とされています。


 いいですわね、竜。是非とも欲しいわ。彼らが味方して下さったら一瞬で片がつくでしょうに。


 けれど竜は基本的に、人間のようなちっぽけな存在と関わり合いになろうとは致しません。


 原初の森まで出向き、彼らと対話し、彼らに己の力を示し認められた者のみが、竜の力を借りられるのです。

 そういった者達を竜騎士ドラグーンと呼びます。


 一応この国を守る要ですね。まぁ彼らはとても特殊ですが。竜は人間嫌いで、人間のいざこざに首を突っ込みたがらない。人間同士の戦争なんて興味はなく、殆どの場合出兵を拒否します。彼らはあくまで竜騎士個人を気に入って手を貸しているのであって、人間の国なんてどうだっていいのです。


 そして竜騎士は竜を従えているのではありません。竜に力を貸していただいているのです。だから無理強いは禁物。そんな馬鹿な真似をすれば契約を解消され、彼らは原初の森へと帰ってしまいます。


 竜という強大な力を得ている彼らに、国としてもあまり強く出る事は出来ません。

 竜の力で他国を侵略しろわははは! ってやりたくっても出来ないのです。だって竜に臍曲げられたら元も子もありませんから。

 そんな風に長年国と竜騎士団が微妙な距離感でいると、いつの頃からか竜騎士団は国から離れて独立した集団へと育って行きました。


 一応ヴェルダンディ国の竜騎士団なのですが、独自の規律と概念で動く、何と言いますか……そう、ホフステン家の軍隊のような。

 国に請われれば出陣しますよ。竜が良いって言ったらね、という国と対等に渡り合えてしまう程の力になったのです。どうにかしたくても、国は竜が怖くて手が出せませんしね。


 そしてこれは多分、もう何百年も成功している方はいらっしゃらないのですが、万が一帝竜に認められるような事があれば、その方は竜王の冠を頂く事になります。そうなれば有無も言わさず竜騎士団のトップ、団長に任命されます。一国の王と対等に交渉が可能な地位です。


 すごいですね。竜、いいなぁ。帝竜欲しいなぁ。

 なんて思った所で非力なわたくしにはどうしようもないのですが。

 まぁそういう方々もこの世の中にはいらっしゃるのよ、というお話でした。


 というわけで本題。わたくしが詳しく知りたいのはこの人間の住む大陸について。


 昔はこの大陸には幾つかの国がありましたが、長い長い戦争により吸収合併を繰り返し、現在ではこのヴェルダンディ王国と、他二国が在るのみ。

 しかも大陸のど真ん中にこの王都がありまして、つまり他二国と言ってもほぼその勢力は無いに等しい。殆ど無力化されているので、唯一の強国であるヴェルダンディが敢えてギュッと握りつぶすのではなく上から圧力を掛けつつ自治をさせているような状態です。


 そしてこの大陸を語るにあたって欠かせないのがやはり精霊。

 精霊はそれぞれを祀る神殿にて眠りに就いています。


 その神殿は、この大陸の外周に添うように五つ、そして大陸の中心であるこの王都の両サイドに二つ。


 五芒星を描くように、火水風木土。

 これらの属性はそれぞれに作用しあっています。

 二つの属性を組み合わせれば相乗効果で攻撃の威力を倍増させる事もあれば、逆に半減してしまう事もある。

 こちらの属性には勝つけれど、あっちの属性には負ける……火で考えれば分りやすいかしら。風と組み合わせれば威力を倍増、木には強いけれど水には弱い。


 このように、五つの属性が絶妙なパワーバランスを保っており、その守護たる精霊が祀られている神殿が大陸を囲むように在る。

 更に、その五つの神殿から流れる精霊の力が集まる中央にある王都、その日が昇る側に光、沈む側に闇の神殿。


 この国が栄えたのは当然というこの構造。

 そしてこの王都を火の海にてやりました、したわたくし!

 きりり、と無駄に凛々しい顔になってみたり。 


 まぁあれです。この国が他国より勝っていたのは正に、精霊の力を取り入れていたからに他なりません。その事に気付いている人はあまり多くはないと思いますが。誰もそんな事気にしていない、と言った方が良いかしら。


 ですから逆に、精霊の神殿をどうにかしてしまえば、自然とこの大陸は朽ちてゆくのではないでしょうか。

 最悪、五つの神殿だけでも潰してしまえば、時間はかかりましょうが、この大陸に満ちる自然の力はあっという間に減少し、魔の充満を加速させる。


 前世ではジワジワと真綿で首を絞めるような感じでしたが、ガーゼで絞めるくらいの速度になるのではないでしょうか。


 勿論闇の神殿は破壊しません。そもそも闇は魔を集めると言われていて人々に敬遠されがちでした。

 本当にそんな効果があったのかは定かではありませんが、残しておいた方が賢いでしょう。

 というか、わたくしがジェイドの寝床を壊すなんて暴挙出来るはずがありません!


 が、他の精霊についてはどうでもいいです。光の精霊は遠目で見たくらいですし、他のなんて見た事もありませんし。わたくしの目的の為、さらっと消えていただきましょう。


 さらっと、とは言いましたが、この大陸の各地に点在する神殿を破壊するのは並みや大抵の事ではございません。それぞれに高度な魔力を保持した神官や、神殿騎士なるものも配属されているのです。彼らを真正面から相手にするのははっきり言って無理です。阿呆のやる事です。


 遠隔操作で、ポチッとボタン押せばパーンと爆発するような仕組みをどなたか作って下さらないかしら。そうすれば簡単に完遂出来ますのに。


 ん? 遠隔操作……?


 今ピコーンと閃きそうになったのですが、その閃きを掴もうとした瞬間引っ込んでしまいました。

 何だったかしら。とても良い案が思い浮かんだはずですのに。


「お嬢様」

「え、あ、何かしらオズワルド」


 本を睨みつけたまま思考に浸っていて、オズワルドがすぐ傍まで来ているのに気付きませんでした。

 そもそも彼は気配を消すのが上手なので、気付けない事がままあるのですが。


「先程の話ですが」


 先程。何かしら。全くもって記憶にございませんが。

 うぅん、そう言えばお父様がいらして、何やら話していたような気が致しますが。

 わたくしは既に本に夢中で何も聞いておりませんでした。

 ボソボソとお兄様やオズワルドも話していたような気がしなくもありませんが。


 なんでしょう。そんな重要な話だったのでしょうか。

 真正面からジッと見つめてくるオズワルドに、ごめんなさい世界を滅ぼす方法考えるのに没頭してましたとは言えません。


「ええ」


 適当に頷く以外、わたくしに何が出来ましょう。


「本当によろしいでしょうか」

 だらだらと冷や汗が出てきます。だから、何の話なのよと聞きたい。とても。

 こんなオズワルドが念を押すような何かが知りたいけれど、とてもそんな事が出来る雰囲気ではありません。


 ああもうどうしてわたくしは勇気を持って問わなかったのかしら!


「…………ええ」


 わたくしが硬い表情で頷くと、オズワルドは目を閉じゆっくりと息を吐き出しました。今の今までピンと張りつめていた緊張感が一気に緩みます。


 なんだか、とんでもない選択を迫られていたような気が、今更ながらにひしひしと伝わってくるのですが……


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるオズワルドに「よろしくってよ」と答えたのでした。


 この時一体わたくしが何を了承したのか、判明するのはまだまだ先の話。



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