プロローグ
拙作、Game over→悪女の記憶を残してNew gameと同じ舞台・キャラ設定ですが、何ら関係ないストーリーです。
初めまして。わたくしはルルーリア・ハン・ヘルツォーク、ヘルツォーク筆頭公爵家の長女です。つまり超のつく高貴なご令嬢です。
自分で言うのも何ですが、色鮮やかなターコイズの髪も瞳も人目を引くなかなかの美女で、貴族令嬢としての教育も受けておりますので何処へ行っても恥ずかしくない立ち居振る舞いもお手の物ですし、学問だってそれなりに修めております。そしてこの身から溢れ出る高貴さと煌びやかさと言ったらもう。
お父様が「お前は口を開きさえしなければ……!」と頭を痛めていたようですが、さぁさて何のことやら。
天に愛されたとしか言えないわたくしなのですから、多少の性格の悪さはむしろ愛嬌というものではないかしら。
そんなわたくしは後世まで名を轟かせるであろう、最低最悪の大悪女としての生を送っておりましたが、それもついに年貢の納め時。二十歳になると同時に人生の幕引きをしてまいりました。
やれやれ、短いようでなかなかに濃い人生でしたわ。
悪女なんて言ったって、どうせ大したことないでしょとか思った皆さん。わたくしをその辺のいけ好かない性悪なだけのお貴族息女と一緒にしないで下さいまし。
気に入らないお嬢さんをイジメ抜いたりだとか、妬み嫉みで人を陥れようとするなんて、そんな陳腐な真似をする小さな人間ではありませんのよ。
まず王都の中心で大魔術をぶっ放して爆心地に変え、王城を火の海に沈め、人々が血濡れて息絶えていくのを高笑いして見ていたような、そんな悪さ加減でした。
しかし途中で力尽き、わたくしは拘束され処刑されることになったのです。
二十歳の誕生日に断頭台に押し付けられて、首と胴体をバラバラに別たれるその瞬間。わたくしは強く強く願いました。
もし、もし人生をやり直す事が出来るなら、今度こそはちゃんと世界を滅ぼしたい。
あの子の居なくなってしまった世界を、わたくしからあの子を奪ったこの世界を、あの子を見殺しにしたこの世界を、綺麗に滅ぼしてしまいたい。
などという物騒な事を、死の間際に考えましてね。
我ながら罰当たりかなぁなんて、チラッと思いも致しましたけれど、まぁ本心なのでよろしいかしら、と。
人生の最後くらいぶっちゃけさせて下さいまし、と。
色々と思ったりしたわけなんです。
そうしたら、処刑されたはずのわたくしは有り得ない事に意識を取り戻したのです。
いえおかしいわ。わたくし確かに死にましたもの。
さぱーんて。さぱーんってギロチンで首と胴体が真っ二つに別たれたはずです。
そこまでの記憶が鮮明にありますもの、あれが夢だったなんて有り得ません。
パチリと目を開けたわたくしは薄暗く埃っぽい部屋にいました。それだけならまだいい。意味は分からなくても、まだ。良くないのは、両手足を拘束された状態で転がされているというこのヘンテコな状況なのですが、これはどうしてなのでしょう。
え、なんですかこれ、どう考えても監禁
うわごめんなさい、謝ります、謝っても反省しないし撤回なんてしませんけれど、ほんとごめんなさい!!
よく分りませんがもしかしなくても天罰ですか、これどういう状況ですのーー!?
ずりずりとミノ虫のように移動しようとしてみたのですが上手くいきません。わたくしとした事が美しくない真似をしてしまいましたわ。
「おい何する気だ、嬢ちゃん。あんま動くと殺すぞ?」
ひっ! 人がいたんですの!?
勝手にわたくし一人きりなのだと思い込んでおりました。
投獄されて処刑されるその時までずっとずっと独りだったものだから、傍に誰かが居る可能性を完全に失念しておりました。
身体が思うように動きませんので、頭だけを持ち上げて見ると、知らないおじさんが近くにいました。
誰ですの、この髭面。ニヤニヤしながらわたくしを見下ろして、徐に手を伸ばしてくる不気味なこの男性をしかめっ面で睨みつけます。
「触らないで下さいな、汚らわしいっ」
「あぁっ!?」
パシンッ!!
「っ……」
いった!! 目の前が真っ白になって火花が散ったような気がしました。
この男、女性相手に手加減せず平手で顔を打ってくるなんて、どんな神経してますの!?
それにしても、痛い……。口の中を切ったのか血の味までしてきました。
あれちょっと待って下さいまし。
痛覚もあって血も通っている。わたくしは死んではいないし、夢でもないという事かしら。
……現実なら尚更これは何なのです!?
わたくしのした所業は一度の処刑では済まされない程に罪深いという事ですか神様!?
「殺すな、としか言われてねぇんだ。俺はホントは小っちぇえガキをいたぶる趣味は持ってないんでね。これ以上怖い思いしたかなけりゃ大人し――」
わたくしの髪を掴んで頭を持ち上げようとした男は、喋っている途中で消えました。
あの、本当にわたくしの視界から一瞬で消えてしまったのですが。
次いで、ガタンッ!! と部屋の隅っこの方で何か大きなものがぶつかる音がして、えぇと?
早すぎてあまりきちんと捉えられなかったのですが、男の顔に靴がめり込んで、それはもう無残に変形したような気がします。もしかしなくても男が誰かに蹴り飛ばされた、のでしょうか?
「お迎えが遅くなりました。怖い思いをさせてしまい申し訳ございません、お嬢様」
恭しい仕草でわたくしを抱き起して下さったのは少年でした。
まだ年端もゆかぬその少年を、わたくしは呆然と見上げるばかり。この子、どこかで見た事があるような……
彼はぼんやりとしているわたくしの手足を拘束していたロープを外すと、すぐに吹っ飛ばした男が失神している方へと行き、テキパキと先程のロープで手足を縛っています。器用ですわね。
「……小さい」
呆然と少年を見つめ、ふと自分の手足に視線を落とします。
『小っちぇえガキをいたぶる趣味は持ってないんでね』
男はわたくしにそう言いました。子供のように小さな手の平。少年を見上げなければならないくらい、背が縮んでいる?
「あの」
何を言いだそうとしたのか自分でも分りませんが、そう少年の背に向かって話しかけました。
「本日付でお嬢様の付き人件護衛に就くことになりました、オズワルド・ユアン・ホフステンと申します」
オズワルド。オズワルド!?
いえ、そう、彼ですわ。この無表情と感情を感じ取れない淡々とした喋り方。美しい銀色の髪と、夜を連想させるような深い黒の瞳の整った容姿の男の子。
出会ったころはそう、このくらいの歳の少年でした。かれこれ十年以上の付き合いで、その頃の姿なんてうろ覚えですぐに気付けませんでした。
というか
「本日付?」
「はい。失礼します、お嬢様」
「へ、きゃっ」
オズワルドは軽々とわたくしを抱き上げました。
少年らしい細い体をしているのに、どこにこんな力があるのかしら。
「もう大丈夫です。お休み下さい」
平坦だけれど、どこか優しい口調でオズワルドに言われ、わたくしは素直に目を閉じました。
先ほどから目まぐるしく事態が展開し過ぎて、頭がぐるぐるぐるぐる……パンクしそうで、少し頭を休ませたくて仕方が無かったのです。
オズワルドが歩く振動がちょうどいい揺れとなって眠りを誘います。
近く遠くにバタバタと人が走り回る音がします。我が家の兵か、国の騎士団の方々でしょうか。
ああそうか。思い出しました。これは本当にオズワルドと初めて出会った日の出来事だわ。
確か五歳の時、ヘルツォーク家を目の仇にしていた貴族が雇ったゴロツキに、わたくしは誘拐されたのでした。
どうやって調べたのか、ちょうどその日はわたくし付きの護衛が入れ替わりで傍におらず、その隙を狙って攫われたのです。
わたくしは拘束され廃屋に押し込められ、後は先程起こった通り。
まだ少し痛む頬がこれは現実だとわたくしに教えてくれる。
どうなっていますの? 二十歳まで生き、処刑されたはずのわたくしが、五歳の時の出来事を追体験しているだなんて。
死ぬ間際には走馬灯のようにこれまでの人生が頭を過ぎるだとか聞いた事が有りますが、こんな生々しく時間をかけて思い出すものですの?
……もしかしてわたくし、本当に時間を遡っちゃったりとか、してたりなんかして……
『もし、もし人生をやり直す事が出来るなら――』
出来ました? これ、五歳まで時を遡って人生やり直しって事でしょうか?
分らない。当然ですがこんな経験今までありませんでしたし……あまりにも突拍子もない現実味もないお話ですし。
よし、寝てしまいましょう!
夢でも死ぬ間際に過去振り返ってるだけでも、寝るって行為は出来ないでしょう。目を閉じて記憶を飛ばして、それでもしもまた起きられるのなら。起きても尚五歳児のままであったなら。
これは神が与えてくれたチャンスという事です。
人生やり直し、今度こそ世界を滅せよという事です。そうですよね!? え、違う?
でもやっちゃう。どんな意図でこうなったのか分りませんし、誰かの意志なんて知った事ではありません。わたくしはわたくしの望みを叶える為に頑張ります!




