被験体番号003(old maid)
『死神が動き出す時間に作戦をスタートするからね』
モルさんから作戦を聞いて数時間が経った。イメージトレーニングしながら死神を待っているけど...
そもそも死神は本当に被験体なんだろうか...
もしただのウイルスだったら...
時計を見ると12時まであと1時間。
隣ではモルさんが険しい顔で窓を見つめてる。
食べ物からって可能性もあったから、夕飯は食べなかった。
お腹も空いてるし、ちゃんと動けるか不安だ。
死神...
背後は取られたくないから壁に背中をくっつけてじっとその時を待つ。
残り45分
「ユーフィは、本当にやりたい事ないのですか?」
「...必要としてもらえるだけで、僕は充分だよ」
「僕は、本当は外に出ちゃいけないんですよ...」
「...え?」
「動植物と会話する力のはずでしたが...完成したのは動物を争わせるバケモノだったのですよ」
「争わせる...?」
「仲良くなるを通り越して魅了する。動物同士が僕の隣を奪い合うレベルで。」
「そう...だったん...ですか...」
「それが原因でここにおくり込まれたんだよ。」
「僕は、この外見と、要領の悪さからここに。」
「...本当にそれだけ?」
「え?」
「...他にあるんじゃ」
明かりが消える
時刻は11:40
何時もならもう眠っている時間だ。
そういえば何故今日僕らは眠っていないんだろう...
なぜ、起きていられるのだろう...
「モルさん!!!!」
気付いたら咄嗟に叫んでいた。
冷や汗が止まらない。
嫌な想像と予測が頭をよぎる。
気付いたら羽を抜いて構えていた。
何ヵ月ぶりだろう、この感覚は...
僕なら見える、この獣の瞳なら、モルさんを救える...!
「ユーフィ...?何処にいるんだ?」
「モルさん!そこにいるんですね!」
僕は声のした方に走り、モルさんを掴む
「うわ!誰だ!僕に触れるな!離せ!!」
「モルさん!僕です!ユーフィです!!」
「やめろ!!離してくれ!!!」
もしかして、もうウイルスが動いて...
「なんで効かない...」
...誰かの声がした
「そもそも何故まだ起きている、もう薬の効いている時間だろ」
真っ黒い人の形をした何かがいる
全身黒なのか、風貌がまったく見えない
「夕飯に入れそこねたか?まあいいや、ちょっと計画が狂ったが、お前は今日のターゲット...醜い天使」
「...モルさんになにしたの?」
「ちょっと闇を操って五感を麻痺させてるのさ、そいつは使い物にならないぞ」
「...」
これはまずいかもしれない...
けどモルさんの予測は当たってた
ウイルスの正体は死神の被験体だ...!
ならば、コイツが入ってきた扉があるはずだけど...
「あぁ、扉はないよ?闇に潜って来たから。」
「え?」
「だから、影のある場所はどこでも行けちゃうんだよねぇ」
フッ......
真っ黒いヤツが...消えた...?
「こんな風に」
背後に気配を感じてモルさんを連れて退く
「おぉ、流石バケモノ。そう、お前はバケモノという割には兵器の類だったな...あんまりにも気弱だったからここになったんだっけ?(クスッ」
「そんなの...どうでもいい、僕はここから出るんだ...!」
「どうやって?扉は無いし窓も無駄だぞ?」
「...すっごい久しぶりだし、モルさんにも教えてないけど。」
こんな状況でもなければこんな事したくはない。
「いちかばちか」
「何するつもりかわからないけど死んでもらうから」
...早く
「...背中がら空きなんだよ!」
...僕の持てる最大のスピードで
「モルさん...失礼します...」
...飛ぶ
「...な!?」
僕は足でモルさんを掴み、窓に向かって一直線で飛ぶ。
両手の羽を剣に変えて、窓ガラスを割る
「くっそ、待て!!」
ガラスの破片が体に当たる。凄く痛いけどそんなの気にしてられない。
下の方でカチリッと音がした、銃を起動した音だろう。
そんななか、僕は久しぶりの明るさに、光の方向を見た。
あぁ、今日は綺麗な満月だ...
「...あ」
後ろから情けない声が聞こえた
満月の光を受けたあの人の体は人の姿に戻り、僕を撃ち損ねた銃弾があの人に浴びせられる。
僕らは飛び抜けたため、銃弾の被害はまったくない。
自分でもこれだけ早く飛べたのかと驚いたよ。
振り向きはしなかった、見たくなかった
「...あれ?ここは?」
モルさんが満月の光を浴びて闇から解放されたのか、やっと五感が元に戻ったようだ。
「モルさん、見てください。今日は綺麗な満月ですよ」
まずは隠れなければ、まだこの世界から出られてはいない。僕らは牢獄から出ただけで、まだ建物の中なのだから。
けど、本当に。今日の月は綺麗だった。