被験体番号001(old maid)
被検体番号001
世界は未来、世界の終わりが近づいた人類は子供を対象に人以外の被験体実験を行った。
造られたものは多種多様で、天使、悪魔、巨人等。
しかし実験の大半は失敗に終わった。
今回の物語はその失敗により生まれた失敗作の化け物が閉じ込められている部屋での出来事。
「この小さな世界の破滅の物語、知りたいなら教えてあげる」
「スペードの子が今ババ持ってるんだって」
「じゃあスペードは狙われないんだね 」
「こないだハートとダイヤも殺されたから、クローバーの人は気おつけなきゃね」
「...クローバー」
この残酷なゲームに慣れたのも何時頃からだろう。
そもそも誰が思い付いたのかすら分からないか...
この最悪な[ババ抜き]は...
もともと50以上いたこの部屋もずいぶん静かになったものだ、個人的には今の方が楽だからいいとも思うのだが...
ババ抜きが始まった日に貰ったトランプを手に取った。
[♣️4]
これが僕に渡された数字だ。
死ぬのは1日に2人、死神に殺される者と、殺された者と同じ数字の者。
普通ババ抜きと言えば最後までババを持っていた者が負けのゲームだか、ここでは、【日付が変るまてババを持っていた者】が選ばれる。
死神は意思を持ってるので、日付が変わり、仕事を終えれば。僕らが起きる前に次のターゲットの所へ行く。
こちらに選ぶ権利はほとんどない。
まあ日付が変るまでに他の人にジョーカーを押し付けたり、貰ったりなんかも出来るが、そんなバカは今のところいないな。
しかし、今日選ばれたスペードの数字が気になるな。もし、僕と同じ数字なら。
最悪の場合も考えてはみるが...
やはり死にたくないな。
やり残しだとか、そんなんじゃない。
ただ生きていたいだけだ。
こんな理不尽な人生でも、やはり、幸せを感じてみたい。せめてそれを感じてから死にたい。それが願いだ。
...自分の身の安全が知りたい。
今日の生贄を探すか...
...グスン
死神は何で僕を選んだんだろう...
やっぱり僕って必要ないのかな?
僕は手元にある2枚のカードを広げる
[♠4] [joker]
分かってる...自分がどれだけ醜く、どれだけ必要とされてないかも潰れそうになるほど身を持って知ってる...
僕は中途半端に人間を辞めたバケモノだ
生きる価値が無いのも理解出来る。
背中には、天使の実験で失敗した醜い翼
脚は副作用で鳥の足になったし、
目や髪だって...
そうだ、僕は必要とされないから...
「...キミが今日の贄ですか?」
ふと静かで不思議が声が聴こえた。
声の方を振り向くと、そこには綺麗な人がいた。
緑の内側に巻いた紙に切れ長の目。
耳が尖ってるから...エルフかな...?
なんで、こんな美しい人がここに?
「質問に答えてください、聞えてましたか?」
「ふえ!?あ、はひ!!ぼぼぼ、僕はユンフィリィトでございます!!」
「別に名前は聞いてないのですけど...」
「す、ス ミ マ セ ン...」
「それで、今日の贄は貴女なんですか?カードを2枚持っているようですが...」
「あ...えっと...」
エルフの人がカードを上からのぞき込む
「ジョーカーと...スペードの...4...」
エルフの人の顔が凍りついた
唐突に自分のカードを取り出し数字を何度も確認する...そして膝から崩れ落ちた
手から落ちたカードには[♣️4]と書かれていた
そうか、この人も僕と同じなのか...
「...認めるものか」
「え?」
「...名前は確か...ユン...なんだっけ」
「あ、ユンフィリ...」
「ユーフィでいいな?」
「え?え??」
「僕はモルダバイト、モルでいい」
どうしよう、何を言ってるんだろう。
「ハートの4とダイヤの4はこないだ死んだからな、今日の生贄は僕らで間違いないだろう...」
「は、はい...」
「こんなところで終わってたまるか、僕が死なない為に力を貸して欲しい、ユーフィ」
「...え?」
今、僕...もしかしてこの人に必要とされた?
「返事は?」
「...はい、はい!」
気付いたら僕はこの醜い瞳から涙を流していた。
「なにを泣いているんですか...今日死ぬかもしれないのに...」
たとえそれがどんなに残酷な結末であろうと、僕は求められるだけで涙を流す程嬉しいんだ。
たとえこの人の中で僕が生きていなくても。