カフェラテとカプチーノ2
「ねぇなつひ。わたしね、栞さんは何も思ってないわけじゃないと思うんだ」
「……その話もう終わったんじゃなかったの?」
いつの間にやら手帳をしまい終えた美緒は、納得いかない、というような顔をした。
わたしは、思わず訝し気に美緒を見る。
「終わってないよ!4月から何回お誘い受けたの?」
「たぶん、15回とか……?」
「ほら!約5ヶ月の間に15回って単純計算で週一だよ?普通の友達にしては多すぎると思うんだけど!よっぽど仲良かったり、付き合ったりしてなきゃそんな風に誘ったりなんてしないってば!」
「……わたしはその"よっぽど仲のいい"枠に入ってるんじゃないの?」
「まったくもう、なつひって他のことだととっても頼りになるのに、恋愛のことはからっきしだね……」
「えっひどい!」
美緒はため息をついて、目の前のカプチーノに手をつけた。
わたしが色恋沙汰に疎いのは、自分でもわかっているつもりだ。
男の人があまり得意ではないし、部活で交流が深かったとはいえ、自分から近寄ろうとしたことはない。
それに、男の人にいい思い出はないのだ。
身長が高いことと、きつい印象を与えてしまう顔をからかわれた覚えしかない。
それに比べて、美緒はおしゃれをすることもメイクも上手で、男の人が苦手なんてこともない。
身長も低めで、まるでリスみたいに可愛らしいのだ。
……少し言葉がきついことを除けば。
男の人はきっと放っておかないんじゃないだろうか。
そんな美緒を、わたしは少し羨ましく思う。
「ねぇ、なつひは栞さんのことなんとも思ってないの?」
「なんともって?わたしあんまりそういうのわからないもん」
「……」
わたしの恋愛関係に関する疎さは、初恋もまだなのではないか、というくらいで、聞かれても本当に何もわからない。
「ただ、栞さんはわたしの言いたいことに気がついてくれたり、相談乗ってくれたりするし、とっても優しいな、とは思うの」
「ふーん……そうなんだ」
「うん……何その微妙な顔!」
「別にー?……そういえばなつひ、今日バイト何時から?」
なんだか変な顔をしてこちらを見ていた美緒は、はっとして、腕時計に目線を移す。
つられてわたしも自分の腕時計を見ると、針は5時半を指していた。
「うわぁたいへん、今日6時からなの!」
「じゃあお会計して出よう。ここからバイト先まで何分だっけ?」
「10分くらい」
「まだ大丈夫そうだね」
随分バタバタとしてしまったけれど、2人でお会計を済ませ、わたしと美緒はまた連絡することを約束して、その日は別れた。