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再会2



「もう大丈夫?」


しばらくして落ち着いたわたしに、栞さんはそう尋ねた。


「あの、わたし……ごめんなさい、久しぶりにあったのにこんな、ご迷惑をおかけして」

「ああ、気にしなくていいよ。俺も篤広も時間はたっぷりあるし」


栞さんの顔は見ることができなかった。

顔をあげられなかった。


「それで、なつひはなにがあったの?」

「え、っと……あの、わたし、」


口が、まるで瞬間接着剤でくっつけられたのではないかというくらい、開かなくなった。

頭の中で、教室に響いていた声が反芻される。

また、目に涙が溜まっていく。


「……なつひ?むりして話さなくていいよ。ごめんね」


頭に栞さんの暖かい手が触れた。

余計に涙が出てしまって、けれど、これ以上栞さんと男の人に迷惑をかけるわけにはいかない。

深呼吸をした。


「あの、大丈夫です。ごめんなさい」


顔をあげて栞さんに笑いかけると、栞さんは少し眉根を寄せた。

いつの間にか、あの男の人はどこかへ行ってしまっていた。


「……わたし、親友に嫌われてしまったかもしれないんです」

「……原因はわかってるの?」

「それが、その、わたしが指定校推薦を受けることになったから、らしくて」


男の人から借りたハンカチは、涙で濡れてしまっていて、その上、わたしが無意識のうちにぎゅっと握りしめていたせいでしわくちゃになっていた。

これは洗濯して返さなければいけないと頭のどこかでそう考える。


順を追って一から全て栞さんに話をすると、栞さんはわたしの言葉を聞いて、目を大きく見開いた。


「指定校推薦か……そっか、じゃあまずは、おめでとうだね、なつひ。頑張った結果じゃん」


「でも、それがわたしとあの子の間を裂くものなら、悪口を言われて、無視もされるくらいなら、受けなきゃよかったかもしれないと思ってしまいました……受けさせていただこうって決めたのはわたしなのに。もう、あの子と話せなくなったら、挨拶すらもできなかったらって思ったら怖くて、」


栞さんはにこにことこちらを見たけれどわたしの言葉を聞いて、すぐに深刻そうな顔をした。


「そっか、そうだなぁ……俺はさ、受けることが悪いことだとは思わないよ、なつひ。それはなつひが3年間頑張ってきた結果でしょ?それが先生の目にとまってチャンスが与えられた。それは自信を持っていいと思うんだ、俺」


「……はい」


「俺は受験のとき、一般入試で合格したんだ。正直、絶対ではないにしても、面接と小論文ていうテストをきちんと受けることができれば合格がもらえる指定校推薦は、とても羨ましかったよ」


栞さんの視線はわたしの顔から外れて、目の前で遊んでいる子供達に向けられた。小学生くらいだろうか。縄跳びだったりサッカーだったり、楽しそうに過ごしていた。

栞さんの横顔は少し苦しそうに見える。


「1月くらいには受験勉強でストレスがたまってさ、当時の友達で秋にはもう進学先が決まってたやつに八つ当たりしちゃったんだよ、俺。それはいまでも後悔してる。合格できるのかっていう不安と、合格決まったやつに対する羨ましさと妬みがあったんだろうね、たぶん。焦ってたんだ。そんなことしてもやることやってなきゃ合格がもらえるわけじゃないのに」


はは、と笑う栞さん。彼の言葉に対する返事は、できなかった。

だからさ、と続けた栞さんは子供達からわたしに視線を戻す。


「その子もきっと不安なんじゃないかなって俺は思うんだ。羨ましいと思ってるんだろうなって」

「羨ましい、ですか」


少し、栞さんの言葉を頭の中で繰り返してみた。頭がどんどんと垂れ下がっていく。

そうなのだろうか。彼女も、そう思っているのだろうか。


「挨拶はさ」


栞さんの声にぱっと顔をあげた。


「したらいいと思う。おはよう、とか、ばいばい、さよなら、って、何気ない言葉だけど、すごく大事だから。あと、ありがとうもごめんなさいも大事。それさえ忘れなければきっと大丈夫だよ、なつひ」


にっ、と栞さんの口が弧を描いた。

また涙が出そうになった。



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